トルーマン・カポーティ「冷血」

昨年、高村薫の「冷血」を読んだ後、トルーマン・カポーティの「冷血」を読まなくてはと思っていた。5月の連休はじめあたりから読んでぽちぽち読み進め、先週読み終わりました。あらすじはAmazon から。

カンザス州の片田舎で起きた一家4人惨殺事件。被害者は皆ロープで縛られ、至近距離から散弾銃で射殺されていた。このあまりにも惨い犯行に、著者は5年余りの歳月を費やして綿密な取材を遂行。そして犯人2名が絞首刑に処せられるまでを見届けた。捜査の手法、犯罪者の心理、死刑制度の是非、そして取材者のモラル―。様々な物議をかもした、衝撃のノンフィクション・ノヴェル。

衝撃の、ノンフィクション、ノベル、というところが味噌でして、六千ページにも及ぶ取材ノートから再構築されたこの実際の事件を元にしたこの物語は、作者を「私」として登場させているわけでもない、事実多めの記述だけどまったく創作の余地がないわけでもない、世に出た初めての「ノンフィクション・ノベル」なのです。文学史に詳しいわけではないので、これが世に出た時の衝撃がどのくらいのものだったのか想像もできないのですが、当時この作品を手にとった人たちは、どう感じたことでしょう。

加害者は若者二人で、四人の家族を死に至らしめるまでの心理を描いたあたりは、最近の日本で起きたいくつかの殺人事件につながらないわけでもない表現にぞっとしました。犯罪を犯した二人はアメリカを移動し続ける。ちょっとロードムービーっぽい。高村薫の加害者たちは国道16号線を行ったり来たりしただけだったけれど、カンザス州で犯罪を犯した彼らはメキシコやラスベガスへ移動しており、そのエリアがとても広い。加害者のひとり(カポーティが深く入れ込んだ方)は、共犯者を親友と思っているのに思われている側はそうでもない、むしろどうして道中で殺しておかなかったんだと思ったりもしてる。この孤独!! 

そんな物語なのに季節や風景の描写はきらめくように美しく、いちいちメモを取りたいくらい。見たことがない景色だから余計そんなふうに感じられるのかしら。今のカンザス州にそんな風景が残っているとも思えなのだけど。

エンディングはまるで映画のようで、というか、この作品以降の映画は、このエンディングを手本に映画作ってるんじゃないかというような余韻のあるものでした。


今回読んだのは、龍口直太郎氏翻訳の古い版。うつくしき新潮文庫のフォント、このページの余白、煉瓦色の栞、またこの小説は物語が変わるところの最初の一文字が2級大きい太ゴシックになっており、ちょっとハネがあるこのゴシック文字を見るたびにキュンとする、「あぁ、いま、小説を、読んでいるんだわ、私!」って気分になる。文庫サイズで小説読むなら新潮文庫一択です。

トルーマン・カポーティは、この作品を完成させたあと、長編小説を一冊もまとめることができず他界します。「冷血」の題材となる農家殺人事件の起こる2年前の1957年(昭和32年)に来日しており(最初で最後の来日です)映画ロケのために来ていたマーロン・ブランドと会見するために京都を訪問し、その節には三島由紀夫とも面会しているそうです。「冷血」の物語に好意的に描かれている日本人居住者家族や、加害者のひとりが京都で買った根付を大事に持ち歩いてる場面などもあり、そんなところもちょっとおもしろいです。

というわけで、今年の正月に亡くなったフィリップ・シーモア・ホフマンの「カポーティ」も早いうちに見ようと思います。

カポーティ [DVD]

新潮文庫のフォントの話、イトイさんのサイトにあったわ。
http://www.1101.com/shincho/05-07-05.html
これもあとで読む。

3 COMMENTS

たかとり

オズの魔法使い以外に、カンザスを舞台にした小説があったとは!今度読んでみなくちゃー。

カンザスの訪問目的を「観光で…」と言っても入管が通してくれないような、畑ばっかりの、一見何もないような土地でしたが、そこで出会った人々のおかげで、また訪問したい土地の一つになっていますよー。FBのおかげで彼らともゆるーく繋がっていられる良い時代になりました。

返信する
ukasuga

たかとりさん、にゃんとカンザスまで!!!! わぁ今度ぜひお話聞かせてください。

舞台はホルカムという街で、サンタフェ行きの列車が通過するようなところなんですって。新しい翻訳版のが「誤訳が少ない」とのことですが・・・☆

返信する
たかとり

はい、よろこんでー!<カンザス話。

ホルカムはわたしの行った場所とは真逆ですね。同じ州内には比較的大きな都市もあるようですが、”世界のパンかご”と言われる位なので(小麦生産量が全米1位or2位とか)、わたしの行ったところは街を一歩出ると畑ばかりでしたよ!

同州に行ったことがあるという知り合いはだから小麦関係者(パン屋さん)と、あとは大学関係者でしょうか…。そんな場所に「観光で…」なんて答えたら「何を見に行くんだ!」という展開に…。あとはカンザスの歴史的経緯もありますが、南北戦争の記憶が自分たちのものとして人々の間で語られていたのが印象的で。

翻訳版は新旧あるみたいですが、とりあえず新訳で見てみまーす。

返信する

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください


Notice: Trying to access array offset on value of type null in /home/users/2/oops.jp-mouse-design/web/wp-kimonomichi/wp-content/plugins/amazonjs/amazonjs.php on line 637