なんで山なんか登るの降りるのに／角幡唯介「空白の五マイル　チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む」

あらすじはAmazonから。
チベットの奥地、ツアンポー川流域に「空白の五マイル」と呼ばれる秘境があった。そこに眠るのは、これまで数々の冒険家たちのチャレンジを跳ね返し続けてきた伝説の谷、ツアンポー峡谷。人跡未踏といわれる峡谷の初踏査へと旅立った著者が、命の危険も顧みずに挑んだ単独行の果てに目にした光景とは―。
第8回開高健ノンフィクション賞、第42回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。

ツアンポー川に流域に挑戦したという過去の冒険者たち

キントゥプ

インド・シッキムの仕立て屋。ギャラ、ペマコチュンまで到達。1884年の彼の探検の報告で「ツアンポー川に巨大な滝がある」と記述し、後に数々の冒険者たちを引きつけるきっかけとなった。

フレデリック・Ｍ・ベイリー

イギリス人、英領インド政庁の役人。1913年、アッサムからツアンポー川を探検。キントゥプのいう大滝なんて存在しないことを突き止めた。

フランク・キングドン・ウォード　

英国のプラントハンター。1924年 虹の滝とプラマプトラの滝を発見。彼が探検できなかった区間がのちに「空白の５マイル」と呼ばれ、1990年代以降の探検家の目標となった。なお、ヒマラヤの青いケシを世界に広めたのは、キングドン・ウォードが現地で完全標本を手にしたことによる。

コーダー卿

キングドン・ウォードにつきあって探検した人。「プラントハンターとなんか二度と旅なんてしない！」と旅を振り返る羽目になった気の毒なひと。「ムーミン谷の彗星」でもヘムレンさんが地球が滅びるその日まで植物採集していましたよね、わかるわかる、わかります、コーダー卿のその気持。

デビッド・ブリーシャーズ　

米国の登山家。1993年、幻の滝を発見。

イアン・ベイカー

米国のチベット仏教研究者。1993年、キングドン・ウォード以来、はじめて峡谷の無人地帯を突破。その後も探検を続け、1998年冬、空白の５マイルにある幻の滝へ到達。後に米中「オレっちがさきに幻の滝を見つけたもんね」論争が勃発する。

角幡唯介

日本人、北海道出身。「チベットの山奥に空白の５マイルというのがあるんだー、おれが探検してうっかり歴史に名前を残せないものか」などとと考えていた早稲田大学探検部学生。学生時代に現地を視察し準備しているつもりでいたが、米国人が先にこの地に到達したことを在学中に知り意気消沈する。
社会人になり朝日新聞に入社、「うほっ、こんなに給料もらっていいの？」という豊かで景気のいい独身生活を楽しんでいたが、「やっぱりあの５マイルをやり残してしまっているのではないかと」と彼の地への思いが断ち難く、彼は会社を辞め、退路を断ち、2009年の秋、チベットへ再び向かったのであった、たったひとりで。

面白かった・・・。あんなにいきあたりばったりで冒険に出ちゃっていいものかとても心配になっちゃうんだけど、生きて帰ってきてこんな面白い本を執筆してくれてほんとうによかった。

イザベラ・バードも明治時代の日本を探検する際、有能なガイドを英国のプラントハンターと取り合うシーンがありますが、プラントハンターって、つまり、アレでしょ、研究者の顔した密偵でしょ？　さすがイギリス、おれたちにできない事を平然とやってのけるッ そこにシビれる！ あこがれるゥ！

プラントハンターってひとの人生はさぞかし面白いんでしょうなぁ。次はキングドン・ウォードさんの自伝に挑戦してみようと思いますが、古本でしか入手できなさそう・・というか入手できるのかしら。

上↑でもさらりと触れたように、日本でヒマラヤの青いケシが高原地帯で見られるのも、キングドンさんのおかげなのです。いやー現代と歴史がこんなところでつながるとは！　

そしてなぜかヒマラヤの青いケシの写真を持っているわたくし。2011年撮影。

一昨年の春頃、「なにっ、キャセイパシフィックで行く香港経由ラサ行き５泊６日ホテル込で98000円！？」というツアーをみたとき、行こうかどうか悩んで結局別の旅先にしてしまったんだけど、今思えばあのときが行くべきタイミングだった、値段も破格だった。わたしたちはいま、戦争が起きなくてもあっという間に世界が変わってしまうのを目の当たりにしているのだから。