三行で八千メートル登る人／竹内洋岳「標高８０００メートルを生き抜く　登山の哲学 (ＮＨＫ出版新書)」

プロ登山家の竹内洋岳さん。どんな人かというと、Wikipediaから引用。
竹内 洋岳（たけうち ひろたか、1971年1月8日 – ）は、日本の登山家で、世界で29人目で日本人初の8000メートル峰全14座の登頂者[1]。身長180cm、体重65kg。東京都出身。立正大学仏教学部卒業。株式会社ICI石井スポーツ所属。立正大学客員教授。『文部科学大臣顕彰、スポーツ功労者顕彰』、第17回「植村直己冒険賞」、『第15回秩父宮記念山岳賞』を受賞。

2001年のナンガ・パルバット国際公募隊で常に先頭に立ってルート工作を行い、その力強さから『コマツ』のニックネームで呼ばれた。

コマツ！！！　ちょっと昔に買ってホクホクしていたら、その後中国経済の失速でアワワとなり損切りせざるを得なかったコマツ！

わたくし、これまで山野井泰史さんの登山本とか、またそれを描いた沢木耕太郎のご本とか、植村直己さんの「青春を山にかけて」と、新田次郎全作品とか、登山に関するご本をいままでいろいろと読んできたつもりなんですが、なんというのでしょう、この方の淡々とした登山っぷり！

2007年にパキスタンのガッシャーブルムII峰で雪崩に遭い骨折した竹内さん、同行者二名が死亡、腰椎破裂骨折という大怪我を負いながらも翌年同峰に挑戦します。8000m14座を目指すプロジェクトの途上であり、背骨を支えるチタンとともにガッシャブルム峰の頂上に経つことができます。頂上でわきあがる感情が多すぎて、初めて登山で泣いた竹内氏、しかしその後、すぐに峰続きのブロード・ピークに移動し11座制覇を目指します。そこの記述をまるっと引用。

七月二十九日。ベイカー（※ドイツ人登山家）と平出君（※クライマー兼カメラマン）とともに、シングルプッシュで山頂を目指す。BC（※ベースキャンプ）から一気にC2、C3へ。そして三十一日、ブロード・ピークの山頂に達します。

えぇー、三行！　峰続きとはいえたったの三行で八千メートルの山へ！！！　

竹内さんの登山って、確かに命がけの偉業ではあるんだけど、全然そんな風に感じさせないのよね。彼自身の文章が平易で淡白というところもあるけれど、「トレッキングのついでに八ヶ岳のぼってきたよー」「へー、すごいねぇ、・・・・え、その装備で！？　マジで！？」という感じの軽やかさで８０００ｍを登っていきます。

インターネットを駆使して最新の現地の天気予報を取り寄せたり、自分にくっつけたＧＰＳでインターネット上にリアルタイムで位置情報を発信したり、使えるものはなんでも使って、日本から持っていく荷物も最小限にして現地で手に入るものはなるべく現地で調達し、コンパクトに合理的に登山してるんですよね。国を挙げての一大事業で捨てるほどの荷物を持って大人数で乗りこんでする昔の登山とは明らかに違ってきてます。ミニマム登山家です。こんな8000ｍ級登山の世界にもミニマリストの足音が。

わたくしは、山野井泰史さんにパンターニみたいなストイックさを感じたものでしたが、竹内さんからはコンタドールとかニバリのような新世代の匂いを感じます。今年のジロ・デ・イタリアを完走した日本人選手山本元喜さんみたいな新しさというか、まっつぐなエリートさというか、気負いの無さというか、ナサには電話しないでくださいというか。

若くして成功した経営者の気負いのない自伝みたいな印象でもあります。旅好きな方、山好きな方、ぜひー！！

あと山岳用語で山頂を目指すことを「アタック」といいますが、あれってもともと英国軍が軍事活動の一環として登山してたときの名残なんですってね。いまは「アタック」って云わず「サミットプッシュ」というんですってー。「山頂まで自分の体を押し上げる」という意味です。へーそうかー、あーだから、イギリス軍は山岳民族に詳しくなってグルカ兵とか使うようになってくんだな。そうかー。