気をつけろ記憶を上書きされちゃうぞ!/アラン・シリトー「土曜の夜と日曜の朝」

土曜の夜と日曜の朝 (新潮文庫 赤 68-2)

本はなんでもかんでも断捨離すればいいってもんじゃないねぇー。高校生の頃に読んだこちらのご本を読み返したくなって自宅を探してみたけれど、どこかのタイミングで古本屋に売り払ってしまったらしく、結局アマゾンのマーケットプレイスで買い直して読んでる。うぉぉ、昔の新潮文庫、字が小さいー、しかし品格あるフォントで大好きよ、数ある文庫の中で新潮社のフォントが一番好きよ! La Kagu は「なんで数年前にマロニエゲートでやったことをもう一度神楽坂でやってるの?」って感じだけどね、キッキッツ!

あらすじは、Amazon のサイトから。
「人生はきびしい、へこたれるもんか」―自転車工場の若い工員アーサーは、父親から上司、政治家に至るまで権力と名が付くものが大嫌い。浴びるように酒を飲み、人妻を誘惑し、気に入らないヤツに喧嘩を売る日々を送っている。〝悪漢物語〟の形式を借りて労働者の青春を生き生きと描き、第二次大戦後のイギリス文学界にショックを与えたシリトーのデビュー作。

いや、ちょっとこの要約、違うんじゃないの・・・? あらすじとはいえずいぶんと端折ってない? 権力は嫌いだけど彼自身は歳相応に少々のやんちゃを交えつつ、たいそうおだやかに淡々と生きてるように思えますが・・。自転車工場の若い工員ではありますが、1950年代半ばのイギリスでアーサーは週給14ポンドもらっています。この時代の1ポンドは日本円の1000円、昭和31年の日本の銀行員大卒初任給が5600円(まぁ日本が新興国だった時代なのよね)。単純には比較できないけどたいそう有能な高給取りです、トヨタの優秀な期間工さんとかと同じようなものと考えていただいてよいのではないでしょうか。若くて独身で洋服にしっかり投資できるほどの小銭が稼げて背が高くてハンサムだったら多少のやんちゃも致し方ない、致し方なかろう。悪漢物語というけれど、その頃の青春ってそんなもんだったんじゃなかろうか、そしてそれは今も、世界中の若い男の子たちがやってることなんじゃなかろうか。

それで私は、この物語の本題は「この権力に楯突く」ことではなく、淡々としかし抜け目なく自分の人生をどうやって楽しむかというお話だと思ってまして、土曜の夜には浴びるほど酒を飲み、日曜にはゆっくり起きて自転車で川までいきルアーで釣りをしたりして、また月曜を迎える、平日の間にはちょっとずつ楽しいこと-ガールフレンドとデートするとか-を交え、一週間を粛々とやり過ごしまた土曜の夜を迎える。仕事をしてるいまの私たちの暮らしとどこが違うんでしょう。とかいいながらも、アーサーは同じ工員仲間のジャックさんの奥さんブレンダを寝とってますねん。夜勤勤務になって深夜手当が上乗せされることになったジャックは「これで収入が増えるな」などと喜んでいるけど、そのそばからアーサーは亭主の目を盗んでブレンダと逢瀬を重ねますねん。そしてアーサーはこう言いますねん。

しかし考えてみると、おれがあいつの女房とよろしくやっているのもあいつの自業自得だよ。夫というものをアーサーは大きくふたつに分類する。女房をちゃんと扱う亭主と、にぶい亭主。ジャックはあきらかに後者だが、世のなかには後者のほうが多いことをアーサーは経験によって知った。すばやくそれを呑みこんでしまうと恋愛は調子よくはこぶし、したがって人生が楽しくなった。陽の照るうちに草を乾せ。ものにするには亭主のある女にかぎる、と十七歳のときから彼はそう思って生きてきた。<にぶい>亭主どもには同情なんか感じない。彼らには何かが欠けている。足が一本しかないとか、そんな不可抗力の欠陥じゃなくて、彼ら、つまり<にぶい>亭主がひとりよがりをつつしみ、目をひらき、ちょっと女房をかまってやれば簡単に直ることなのだ。寛容な気持ちのときのアーサーは女というものを、単なる飾りや下女とは考えない。女はあたたかいすばらしい生き物だし、かまってもらう必要と権利をもっているし、男はもちろん仕事とか自分自身の楽しみとかよりも大切に、ひとりの男として可能なかぎりの関心をそそぐ必要がある。それに女によくしてやれば男もけっこう楽しいんだ。

奥様が旦那様の悪口ばかりをいう熟年カップルを身近で見てまして、旦那様をDISる内容が「あわわ、奥様、だいぶ記憶を捏造されておりませんこと?」といった事案が多数。彼らの世代なら致し方無いことなのかもしれないけれど、そんな振る舞いを30年も40年も続けていくと、若かった頃の楽しかった記憶が全部消えて「私はこんなに大事にされてこなかった」という言葉しか出てこなくなっちゃう。そしてその言葉に合うように彼女の記憶が知らず知らずのうちに都合よいように上書きされていっちゃう。呪詛の言葉しかでてこない老年期は辛いよぅ。とかいいながら、年上のお姉さまから「(何歳になっても)女の子は、男の人にもっと大事にされていいんだよ」というアドバイスを若い頃にいただいたことがあるのだが、そうかーそういうことか、こういうことなのかーと今になって腑に落ちたりしてるんだけども。おいおい今になってかい。

この小説は映画にもなってるのね、今作りなおすといいよ、私が正座してみるよ! イギリスにも労働者が豊かな時代があったのだなーと感心しながら見るよ、そしてその55年後には『フル・モンティ』を経由して『天使の分け前』になるんですわ、うむ。

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