あの母の丁半博打柿若葉/あるいは私がなぜ鞄病になったか/長谷川町子美術館に行ってきた話

客先を出たあとぽっと時間ができて、おっ、ちょっと移動すると長谷川町子美術館に行ける時間帯ではないですか、ということに気づき、スタコラサッサと移動してフラッと行ってきました。

長谷川町子美術館はいいぞ。日本が豊かになろうと勢いつけている昭和の時代にわさっと花開いた大衆画壇(といっていいのかどうかわからないけど)の中から長谷川町子が選んだ、愛らしく気持ちの良い爽やかな作品を収蔵している上品な小ぢんまりとした美術館です。原宿の浮世絵の大田美術館の昭和画壇版ととらえていただいてよいでしょう。

入館料を払うと、サザエさんの絵が描かれたチケットとこの美術館の設立のいきさつをまとめた漫画ペーパーが渡されます。

漫画の人気がすごく暮らしが楽になり、絵を買い漁るようになってきた。そんなとき、自宅に「つきぢ田村」の大旦那が遊びにきた。買ったばかりの東山魁夷の作品を見せてみると、「たくさんいい絵を集めてらっしゃるようですが、うちはお客さんに見てもらってますからねー、ガハハ」というマウンティングにがっかりする町子姉妹! そんじゃー社会還元してみるかと姉妹が相談を持ちかけた相手が東芝の専務。さすが・・大スポンサー! 昭和五十年代終わりの話でございます(ちなみにこの話、書くの二回目)。

 

この長谷川町子のお母さんという人がすごい人で、この辺はサザエさんうちあけ話に収録されていると思うのですが、かいつまむとこんな感じ・・・

お父さんが若くして亡くなったあと一年泣き暮らし、ガバっと跳ね起き、「東京に行くわよ!」と娘たちを連れて「当時、アパートが二軒ほど買えるお金」を持参して上京。娘の習い事に暮らしに施しに豪勢に使いまくり、「あ、ごめん、使い切っちゃった☆」としれっと告白。そして戦争。その間も町子さんは漫画をなんとか描き続け、迎える終戦。闇市で物資が高騰してるとき、お母さんどこからかお金をもってきて「ね、これで紙買って、サザエさんを出版しちゃいなさい」と闇紙(?)を買い占める。変形本を2万部も刷っていよいよ発売! しかし本屋からは「こんな変形本じゃ置き場がないから売れないよ」と返品が山のように。庭に小屋を立てて在庫をすべて突っ込み、自分たちは頭を抱えているというのに、母は強しで「じゃ、二巻は普通の版で売ればいいわね」と懲りずに出版。大ヒット。「確か一巻ありましたよね?売ってください!」と在庫も一掃! お母さん、なんて商売上手なの? なんて度胸があるの!? 私は、このお母さんの物語を読みたいです。

 

それで私がなぜ鞄病になったかというと、物語の中の女性は、とりわけ母親というものはみな素敵なハンドバッグを持っているものなのです。家族の危急を救う品物が入っている不思議なハンドバッグを持っているものなのです! ムーミンママだってなんでもはいってる黒いハンドバッグを持っていますでしょう? 講談社がムーミンママのハンドバッグ売り出したようですが、ムーミンママがこんな自己顕示欲の強いデザインのバッグを持つはずがありません! 講談社はなにもわかっちゃいません!

ムーミンママのハンドバッグ (講談社の翻訳絵本)

もっとこう・・・シンプルで控えめで、ワンストラップで、蓋をかぶせるタイプでなく、がま口でぱちんと留めるタイプで、内ポケットにはバッグの余り革で作られた小さな手鏡が入ってるような、そんな古風でシンプルなバッグに違いない!

それに引き換え、いまはなんです、どこの鞄も「これはケイト・スペードが作ったのよ」「こっちはマイケル・コースがつくったんですよ」「おわかりいただけますでしょうか、控えめですがしゃねるってわかるようにマークを入れておきました」「あ、もしかしてバレちゃった? このモノグラム柄・・・、てへっ、ルイ・ヴィトンですー☆」などと、もう、もう、作る側の自己顕示欲が強くってよくありません。普通の革のバッグを変なモンスターっぽい面相に加工して40万に値を釣り上げるとか正気の沙汰じゃありません。みなさん、もっと控えめに!!(話がそれた)

それで従来より罹患している鞄病なんですが、いまはだいたい人生で必要なタイプが全部揃っている状態なので、満足してるのよ。そんな瞬間が私の人生に訪れるなんて、ねぇー、不思議ねぇー。

あ、でも、この前、宮古島行きの飛行機の中でみた男性が担いでたヴィトンのモノグラム・ミニの大雑把な布製のショルダーバッグが素敵だったので、中古品サイトなどをめぐって探していることだけは報告しておきましょう・・・。空港は鞄病が再発する恐ろしい場所ですよ・・・。「あぁー世の中には、私がまだ知らぬこんな素敵なおカバンがあるのか・・・」と必ず一度は悶絶できる地獄みたいな場所ですよ・・・。あとこの前銀座でみたアメリカン姉妹がかついでたグッチの四角いアンティークのボストンバッグ・・・復刻してくれ・・・。

1 COMMENT

いち

今年もまだ見ぬ鞄を探して放浪の旅を続けるのね。
私もコート病が再発しそうですわ。
リミ・フウでヤバいコートを見つけ……。

返信する

いち へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください


Notice: Trying to access array offset on value of type null in /home/users/2/oops.jp-mouse-design/web/wp-kimonomichi/wp-content/plugins/amazonjs/amazonjs.php on line 637