二つの元禄が! 小説「堀部安兵衛」池波正太郎

 
堀部安兵衛(上巻) 堀部安兵衛(下巻)
裏切りの少ないエンターテイメント、それが時代小説じゃと思うのだが、実家の本棚をあさっていたら、池波正太郎の『堀部安兵衛』上下巻がでてきた。連休最終日にイッキ読み。
江戸幕府成立七十年余り後、幕府成立に尽力した連中が死に絶え、大阪夏の陣を記憶している人々もわずかとなり、まだまだ往時の勢力・財力もそこそこ残っている諸藩にはだめなぼんくら二代目・三代目殿様がわがままいっぱいにすくすくと育っちゃった挙句、そりゃー武士道にもとるでしょーてなことがたくさん起きつつあったこの時代を象徴するかのような、高田馬場の助太刀と赤穂浪士討ち入りという二つの事件を颯爽とかけぬけた堀部安兵衛の物語。
堀部安兵衛は、少年時代、雪深い新発田藩をやむなき事情により出奔することになります。その後行く先々で出会う人に、助けられ因縁をつけられまた助けられ、人生をかたちづくっていくのですが、その人脈の濃さというか縁の多さだけを見ると、当時の江戸時代は一万人くらいしか人がいなかったんじゃなかったのかしらんと思いたくなるくらい。まぁそこはほれ、小説ですから、こまけぇことはいいんだよ、ま、実際武家社会はこの時代、まだまだいろいろと血と人脈が濃かったような気もいたしますね、うむ。
堀部安兵衛は、元禄七年の高田馬場の決闘で鮮やかな活躍をし、またその武勇を聞きつけた赤穂藩堀部弥兵衛に見初められこの家の婿となり、後の元禄十四年、赤穂浪士討ち入りに参加することになります。まぁ! 二つの元禄の事件が、今、私の中でぴたりと一緒になったのでございます。
浅野内匠頭長矩は、現代でいうところの消防ヲタというか火消しヲタだったそうで、藩は節約しまくっても、『もののふたるもの、常に民を守らねばならん』と消防設備にはバンバン金を使ったそうです。長屋では抜き打ち消防訓練もあり、あぁもう大忙し。そんな浅野内匠頭が松の廊下で刃傷事件を起こしさぁ大変! その瞬間、堀部の余命は2年を残すのみ、人として、武士としてその日をどう生きたのか、物語は一挙クライマックスへ向けて進むのでありました。元禄時代には、まだ、徳川さんが築いた武士道スピリッツがまだ残っていたんじゃのぅと思わせるラストでした。
赤穂浪士の事件のあたりから中村勘九郎(当時)がやった『元禄繚乱』のキャスティングがちらちらしてきて、若き藩主浅野内匠頭は東山さんになる、内蔵助はもちろん勘三郎さん。堀部安兵衛は、なんとなく、内野聖陽さんがいいですな。
元禄っちゅーのも、またひとつの魅力ある時代ですな。
時代小説のエンタメ成分たっぷりと、新潮文庫から、旅のおともによいサイズで出ておりますー。

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