ハチ公のまだ待っている終戦日 大木あまり/映画「この世界の片隅に」

この世界の片隅に 劇場アニメ公式ガイドブック

すずは、広島市江波で生まれた絵が得意な少女。昭和19年、20キロ離れた町・呉に嫁ぎ18歳で一家の主婦となったすずは、あらゆるものが欠乏していくなかで、日々の食卓を作り出すために工夫を凝らす。だが、戦争は進み、日本海軍の根拠地だった呉は、幾度もの空襲に襲われる。すずが大事に思っていた身近なものが奪われてゆく。それでもなお、毎日を築くすずの営みは終わらない。そして、昭和20年の夏がやってきた。

テアトル新宿で。土曜日の公開直後から感想ツイッタが流れ込んできて、テアトル新宿のサイトを見たら日曜夜の夜の最終回割(1300円)の回しか空きがなく、上映期間もその時点では一週間しか予定していないようだったので、BSで真田丸見たあとに行ってきた。日曜21時上映開始だというのに満席。立ち見券も売り出されていた。「発券に時間がかかるから早めに入手してください」とウェブサイトに掲載されていたので、私としては早めに行った、のですが・・。

もともとそんなに大きな箱ではないことは知っていたけど(でも椅子もすこぶる具合が良いし、前の席の人の頭が気にならない素敵な勾配のとてもよい劇場)、こんなにーひとがーていうかーおとこだらけー。客席八割が男性! あぁわたし、この男くさい空間・・・身に覚えがある・・・。黒いTシャツ着た人ばかりが集まってきた浅草映画祭町山智浩さんの回とか、マッド・マックス怒りのデスロード立川爆音上映とかこんな客層だった・・・だって女子トイレが閑散としているのに対して、男子トイレには長蛇の列がーーー! 町山さんの「この世界の片隅に」応援ツイートに焚き付けられた人たちか、のんちゃんのファンか、あるいはミズタクの花を見たくてやってきたあまちゃんファンか、マイマイ新子と千年の魔法ファンか。まぁよく考えたら、淑女は日曜の夜に新宿三丁目の映画館に一人で出かけたりしないものなのよね、私が間違っておりました。

私の隣の席の男性が、大きな声で映画に反応する方で、それはいい、それはいいとして、エンドレス飲食ガサガサ中高年で、映画のあいだずーーーーーーーとなにか食べるか何か飲んでいる方で、うん、まぁそれはいい、ギンレイホールにはメイクボックス持ち込んで化粧落としながら、2リットルのペットボトルの麦茶をごくごく飲みつつ、折り詰めワシワシ食べて夕飯済ませていく女性がいますもの、映画の見方にはそここそわたしも寛容ですよ(メイク落としてるのは私じゃないよ!)、まぁそれはいい、全然よくないけどまぁそこは許す、一緒にメシ喰う相手も酒飲む相手もおらんから映画館で映画見ながらごはん済ませようってことなんだろう、でもねでもねでもね、「すずさん、傘は持ってきとるかいの」「はい、新なのを」のシーンで、プシュって缶ビール空けるこたぁないじゃないの。おまえの家じゃねえっつの! ふえーん、これだから中高年男性っていやぁよぅー!

閑話休題、あまちゃんのミズタクが贈った花。ファンの遊び心かもね。

またこの作品、予告編なしで上映開始ということでしたが、1作品だけ予告がかかりました。大野いと・青木崇高主演の「雨にゆれる女」という作品です。福岡県出身と言っていたが実は佐賀県出身のいとちゃん! 湿度高めの濃そうな映画で楽しみです。

映画よかったです。空間表現たっぷりのアニメという手法で描かれた美しい広島や呉の街。この美しい街や豊かな暮らしが戦争により失われていくのか、と思うと最初のシーンだけで涙がでてくるよ。馬鹿な軍部のせいだなどと文句を垂れる人もなく、それらに虐げられているというふうでもなくこの暮らしを粛々と淡々と続けていく市井の人々の暮らしが胸に迫るよ。

マンガでは、最後のシーン、夕闇の呉駅に降りた二人が「見い 九つの嶺に 守られとろう ほいで九嶺(くれ)いうんで うしろは海 右のんは休山 左のんは鉢巻山 その向こうが広島よ」と背中に背負った孤児に話しかけるシーンが淡い色合いの美しい見開きカラーなの。映画でも豊かに再現されていて、続くエンディングは物語の続きで、クラウドファンディングに参加された方たちのお名前を紹介する別のエンディングにももうひとつ物語が織り込まれていて、本編では割愛されていた箇所がよく補完されておりました。

すずちゃん、昭和元年とか大正末期生まれだと思うけど、まだ全然生きてる人の話だよね。一人でも多くの日本人に見てもらいたいってことはそういうことだと思います。みなさまもぜひ。


みなさんがすごく「感動した」「涙が止まらない」「わわわーん!」とおっしゃるので、一体どうしたことかしらと思って眺めていたけれど、ラジオ番組での町山さんの映画評書き起こしを聞いて腑に落ちた。

http://miyearnzzlabo.com/archives/40487

(山里亮太)また、漫画もいいんだけど、漫画と映画のいいところが見事にこう……

(町山智浩)そう。あと、たぶんね、いまの僕の世代でもギリギリ全部の意味がわかるっていう感じなんですよ。たぶん、わからない人はいっぱいいると思って。妹さんの腕にアザができる意味がわからないっていう人もいるでしょう? たぶん。なんの説明もないですよ。

あぁそうか。私の隣に座ったエンドレス飲食おじさんも、多分、原作は読んでなくて、だから空襲のシーンで缶ビールプシュってやればいいって知らなくて、しかもあの作品の中でのいろいろな表現が伝わる人が少なくなってて。1962年生まれ54歳の町山さんがそうおっしゃるんですもの、記憶も薄れているはずです。白木りんさんのあたりもものすごく省略されています。あそこの悲しみとやさしさこそ、私は分かち合いたいところでしたがー! 本当はここでこそ伝えたいことが一杯あったと思うのに。

「いろいろな表現がいまいち伝わってなかったのかしら」とおぼしき方々はおざわゆきさんの「あとかたの街」で情報を補完しましょう。都市部の戦争は、それはそれは食べるものが少なくてもっと悲惨です。私はこの作品で焼夷弾の恐ろしさを理解しました。どちらも貴重な作品です。ぜひぜひ。

あとかたの街(1) (BE・LOVEコミックス)

おざわゆきさんのお父様のシベリア抑留の体験をもとに編まれた「凍りの掌」もあわせてぜひ。
凍りの掌

お腹すかして戦争には勝てるわけないよねぇー。

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