『遙かなるケンブリッジ 一数学者のイギリス』藤原正彦

 
新田次郎・藤原ていの三男坊、藤原正彦氏が、1987年、家族を伴い留学したケンブリッジ大学での一年を綴ったエッセイ集。新潮社から単行本として発売されたのが1991年10月、同じ年の春に林望先生の「イギリスはおいしい」が平凡社から出版され、こちらは同年の日本エッセイスト・クラブ賞を受賞、ちなみに藤原正彦氏の「若き数学者のアメリカ」は1978年に同賞受賞。1987年といえば、バブルの只中、1985年が1ドル260円だったのに対し、たった2年で1987年には160円まで円高が進む。ブハハハ、ジャパン・アズ・ナンバーワンってマジだねー、再来年あたり、ロックフェラーセンターとか買っちゃう?、マジマジー?、 という時代。藤原氏も意気軒昂とイギリスへ乗り込まれたことでしょう。という時代背景を振り返りながら、2013年のいま、洋行帰り直後で読んでみるわけですよ。
あらすじは文庫版の背表紙から。
「一応ノーベル賞はもらっている」こんな学者が闊歩する伝統の学府ケンブリッジ。家族と共に始めた一年間の研究滞在は平穏無事…どころではない波瀾万丈の日々だった。通じない英語。まずい食事。変人めいた教授陣とレイシズムの思わぬ噴出。だが、身を投げ出してイギリスと格闘するうちに見えてきたのは、奥深く美しい文化と人間の姿だった。感動を呼ぶドラマティック・エッセイ。
アメリカ仕込みの英語と文化でイギリスに乗り込んでみたら、フッと華麗にスルーされ続けてしまうマサヒコ先生。レイシズムの嵐に遭うってほどじゃないけど、いろいろな場面で「むむー!」となってしまうことが多い。特に次男坊がいじめられているエピソードは「ちょっと、お父さん、仕事ばっかりしてないでちゃんとしてやってよ!」とページめくりながらイライラしちゃう。世間から隔離されたようなアカデミックな世界かと思っていたら、イギリスの階級社会にそれとなく付き合わされたり、マサヒコ先生、超大変! 13世紀から始まる古い歴史をもつケンブリッジ大学、「エラスムスが座ったという椅子」やらなにやらが普通に存在していて、えっと、なにそれ、比叡山延暦寺? 彼らが住んだ家も「江戸時代に末期にできたまずまずの古さを持つ部屋」だそうで、ほんとに古いこととナニが出そうなことがよいことなんだなぁ、と。イギリスという国の成り立ち・階級社会のこと、また、普段何気なく使ってる「フェロー」「チュートリアル」「スーパービジョン」という言葉の本来の意味も知ることができました。ちなみに、ケム川の近くだから「ケンブリッジ」なのね! 
機上から見た通り、イギリスは緑だった。どちらを見ても、畑や緑の草原が、なだらかな起伏をなして限りなく広がっている。山は唯の一つもない。白い羊の群れが見える。農家であろうか、時々石造りの家が、一面の緑の中に、小島のように浮かんでいる。美しい。田園の美しい国はどこか品格がある。そう思った。
ここは同意。ユーロスターでパリの北駅まであと15分というところになったら、線路の周りの建物に落書きが増えだし、というより、落書きが書かれてない建物がほとんどなく、あんまりよろしい感じじゃないなーと眺めたものです。
藤原正彦氏といえば、このあと2005年に「国家の品格」というベストセラーを世に出すわけです。お父さんの新田次郎はほとんど読んだけど、これはまだ読んでないのよね。このエッセイ集でも、「衰退する大国・イギリスに学ぶべきことは多い」というような記述があるのだけど、国家の品格を出す頃には「昔、俺はあんなことを言っちゃったけど、シャレにならんがな!」という焦りが筆を取らせたのやもしれませんなー。多分、チャーミングなおとっつぁんなんだと思うよ。
全然関係ないんだけど、去年、甥っ子がロンドンに遊びに行ったとき、「なにかKEEP CALM アイテムを買ってくるんですよ」とお餞別を渡したら、ちゃんと「KEEP CALM AND STUDY ON」というのを、見学先の大学生協で買ってきてくれた。かわいい、んもう、かわいい。
KEEP CALM ジェネレーター
http://www.keepcalm-o-matic.co.uk/
自分でTシャツ作れるお店
http://www.tshirtstudio.com/designs/classic/custom-keep-calm-t-shirt
あら、このTシャツ、ちょっとほしいかも。
http://sumally.com/p/416908
作るならこれだな。

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