極地での犬のさだめを考える/角幡唯介「極夜行」/本多勝一「アムンセンとスコット」

極夜行

角幡唯介「極夜行」

Amazonに掲載されている書評をまるっとコピーいたします。
角幡氏を極夜へと駆り立てたのは、イヌイットの言い伝えで「お前は太陽から来たのか。月から来たのか」と、今から二百年前、初めて部族以外の人間に出会ったイヌイットが発した言葉だという。この一言が角幡氏の心の琴線に触れた。「極夜の世界に行けば、真の闇を経験し、本物の太陽を見られるのではないか」 (中略) 評者:中村征夫

地球上には太陽光が何カ月も届かない「極夜」というものがあるという。著者はそのまっくら闇を約4カ月間ひとり+犬1匹で探検し、現代人が忘れつつある、闇や太陽への原初の感覚を体験しようと試みる。探検家であり、数々の文学賞を受賞したノンフィクション作家でもある著者による、渾身の探検記録だ。(中略) 評者:石原さくら

というノンフィクションなのです。表紙の写真はモノクロ写真などではなく極夜の写真なのです。筆者の角幡氏は、デンマーク王国グリーンランド西北部のイヌイットの村シオラパルクを拠点に、彼の地で仕入れた犬一匹を相棒に、4ヶ月もの間極夜の下で冒険するのです。ときに彼の行き先を示す星々に思いを馳せ、月に幻惑され、事前に運び込んだ食料はホッキョクグマに奪われ、少ない食糧をめぐりイヌイットの犬と醜い争いを繰り広げ、犬の腰のあたりをさすり肉が落ちていることを確かめながらも「この犬を食べることになるかもしれないな」と犬の重量を人間の食糧として計算しなくてはならない局面に追い込まれ、そして遂に・・・・。

 犬ぅー!! 

出発してすぐ、角幡さんはものすごいブリザードに見舞われるのですが、その間も彼の犬はテントの外ですやすや寝ていたりして、イヌイットの犬の強靭さときたらもう。テントの中で一緒に寝ないんだ、寒くないんだ。使役犬とはいえ、そういうものなのか! 確かにゴールデンカムイでも、樺太アイヌのエピソードでそんなようなシーンが出てきましたが、北の犬よ!!

 

角幡さんは、この極夜行のきっかけの一つにも触れている。ノルウェー人のアムンセンとイギリス隊のスコットの間で繰り広げられた南極点争奪チキチキレースの脇で学者チームが行った決死の「世界最悪の旅」。

これは南極の極夜期間に人力で行われた「皇帝ペンギンの卵を奪って持ち帰る」というミッションで、「スコット隊の行動そのものが世界最悪の旅と言われてるけど、本当はこのペンギン卵争奪事件のほうがよっぽど最悪だったんすよ、なんてたって極夜なんですもーん」と紹介している。そこで間髪入れず本多勝一の「アムンセンとスコット」を読み始める。こちらは古い本だったので図書館で借りました。

本多勝一「アムンセンとスコット」

アムンセンとスコット―南極点への到達に賭ける

イギリス軍のミッションとして南極点到達を任されたスコット大佐。それと同時期に「北極点到達をアメリカ人に取られちまったよ、なんだよーじゃーもー南極点到達を目標に変えるか」とやってきたアムンセン。二人の南極点争奪レースの戦いの火蓋がいま切って落とされたのですじゃ! 
とはいえ、アムンセン、イギリス隊の邪魔をしないよう、彼らと100km離れた湾に基地を作り、コースも変え、紳士的に対応。連れてきた90頭の犬はわふわふわふ、俺に任せろ俺に走らせろと帆船のようにして爽快に橇を飛ばす、スキーを履いた人間たちは彼らに引っ張られるようにして南極の大地もスイスイ。食糧基地を十分に準備し、少ない人数で南極点到達を挑み、休養を取りつつ、行きの犬と帰りの犬の数が相当違っていたけれど(途中、弱った犬から屠殺して食糧として食べた。残された犬たちも殺された犬の肉を食べて食糧とした。大好きだった犬も弱っていたため泣く泣く殺した。うぉぉん、犬ぅ!)、誰一人怪我することなく、亡くなることなくミッション遂行!

それに引き換えイギリス軍。だいたいさっさと南極の地にいけばよかったのに、宗主国なもんだからオーストラリアによったりニュージーランドに寄ったりともたもたした行程。南極について初めてスキーを履くような人間もいるほど雪に慣れておらず、研究不足。犬と馬と雪上車を連れてきたけど、馬は餌代がかかるから途中で全頭屠殺、しかもその肉を食べることもしやしない。雪上車は故障して使い物にならない。人力で踏破することになるがデポの準備が万全でなかったため食糧が尽きる。南極点についたら「次に来た国の人ありがと!悪いけど、ノルウェーの国王に俺っちたちが到達した記録になるこの手紙を渡してくれない?」という手紙を読む羽目になる。士官と一兵卒の間に歴然とした格差を残したまま全員帰還途中で死亡。しかしスコット大佐は、最後の最後まで筆致乱れることなく、家族へ別れの手紙を書いて南極の台地の上で永遠の眠りについたのです。イギリスの八甲田山死の彷徨だねぇと思いながら読み進めました。

この本の中でペンギン卵ミッションとか、アムンセンの「二重遭難で行方不明で生死不明事故」などにも触れていて、あの時代の極地探検のほとんどが網羅されていて面白かったです。

さて、前後の荷物の総量を調整しながら、食糧としてカウントした犬を連れていき、拠点拠点で屠って数を調整していくアムンセンの冷徹さ。犬よ、犬よ、そんな運命になるかもしれないとDNAの片隅で理解していないわけなかろう。なのに角幡さんの犬だって、テントから出てきた角幡さんに向かってお腹を見せて『旦那、旦那、ここをさすってくれると気持ちよくなるんですよ、あっしが』などと甘えたりする。犬よ。犬好きな人は、犬を連れた極地探検の物語は読まないほうがいいね、という知見を得ました。「犬を食べるなんて野蛮な!」とかそういってるわけではありません。環境が整備された都会でぬくぬくと愛玩されている犬とそれを愛玩している人間との関係とは、まったく違った濃厚な関係が彼の地の人々の間にはあるのだと理解したのです。

そんなところで犬メモ。
ロシア犬の屈強な北方的性質 
樺太犬(サハリン・ハスキー)は、樺太の少数民族ニブフ族が生活をともにしてきた犬でしたが、ソ連政府が「犬に鮭?けしからん」とこの犬種を駆除してしまったそうです。ひどい! こういうかたちの民族弾圧もあるのか。残った僅かな樺太犬は日本に渡り、南極に連れて行かれ置き去りにされ、一年後に迎えに行ったらタロとジロが生き残っていた、と。樺太犬ぅー。

朝日新聞社:越冬した樺太犬タロとジロの写真も! 南極観測60年展、銀座で
その樺太犬、大きい!!! なんてこったい!!

次は樺太犬の話を読もう。いまって探せばどんな本も手に入るから本当にいい時代だよねぇ。

南極物語

犬ブロッコリージャケットになっちゃっているけど、ディズニーがリメイクした南極物語。シベリアンハスキーとかアラスカンマラミュートとかが樺太犬の代わりにでているそうです。これはこれで見てみたい気も・・・。
南極物語(吹替版)

4 Comments

いち

スコットとアムンゼンの話は、小学校の頃、
ざっくりした経過をなんかで読みました。
記憶にくっきり残ったのは
「馬連れてったから破れた」
その情報でオッケーとして40年くらいきちゃった。
そうか、スコットとアムンゼンの本、読んでみようかな。

返信する
ukasuga

そうなのよー。あれはイギリスにおける八甲田山雪中行軍みたいなものなんですよ。雪上車などの目の付け所はいいんだけど極地で実用性がないということに思い至らない頭のたりなさが気の毒です。巻き込まれた馬と犬と水兵さんが可愛そうで。。

まぁWikipediaにだいたい書いてあるんだけどさ(といか、Wikipediaのこの項目の下敷きになったのが本多勝一本だと思います)

返信する
mikan

こんにちは。幼少期に映画「南極物語」を観て、極地の犬の過酷な運命に耐えられず、最後まで観ることができませんでした。
ジロは剥製になっていて、国立科学博物館で会えるのはご存知ですか?
ハチもいるようですが、秋田犬も樺太犬も想像していたよりも大きくてびっくりしました。

返信する
ukasuga

こんにちは、はじめまして。
わかりますわかります、それが彼の地の暮らし方だとわかっていても、本当に犬たちのことを考えると・・・ムーコちゃんや柴犬まるちゃんとかの環境の違いが。。
国立科学博物館に行って在りし日のジロやハチにあってきたいと思います。情報ありがとうございます。

返信する

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください