ハードカバーであまり厚くなく、美しい装丁の本はないかしらということで、この2冊。
川上弘美「このあたりの人たち」
そこは〈このあたり〉と呼ばれる「町」。
そこには、大統領もいて、小学校も、公民館も、地下シェルターもNHKもある。
朝7時半から夜11時までずっと開店しているが、
町の誰も行くことのない「スナック愛」、
六人家族ばかりが住む六人団地の呪い、
どうしても銅像になりたかった小学生。
どこにでもありそうな懐かしい場所なのに、
この世のどこよりも果てしなく遠い。
〈このあたり〉をめぐる26の物語は、どれも短いのに、ものすごく長い。
「この本にはひみつが多い。
そんな気がする。」 ──作家・古川日出男(解説より)
いろいろな雑誌で連載されていた小さな物語が、実はひとつづきの物語になっていて、本書のために描き下ろした最終話で見事に着地するという短編集。こういうお話書けるのって、川上弘美さんだけだよなと唸る。木の枝にひっかかったピンクのレジ袋の表紙の写真もすごくいい。
文庫版は近藤聡乃さんの挿絵が入ってるんですってね。そちらも素敵そう。ハードカバーのほうにはイラストは一点も入っていません。でも最初は絵のない世界でどっぷり浸ってから、答え合わせみたいにして挿絵付きのものに触れるのがよいような気もします。
町田康・ヒグチユウコ「猫のエルは」
あれえーーこの作家さん、メシ喰うなとかおっさんとおばはんとか歌っていたのにどうしたことなのこのあふれる動物愛は。ハンカチ片手に読んだりして大変でした。
Amazonのレビューを見たらヒグチユウコさんのイラスト目当てで購入した方が「でも猫ってこういうものですよね。わざわざ本にする必要あるのですか?(意訳)」的なことを書いていて、それに対して「イラストに惹かれて買ったと思われる方のレビューがありますが、町田康の古参ファンとしては見過ごせないざます!(意訳)」みたいな小バトルが行われていて面白かったです。