老鶯や中産階級住む町に/水村美苗「母の遺産」続き

母の遺産―新聞小説

あまりにも面白かったので続きを。

そしてこの五十代の娘達2人なんですが、なんというのかしら、この生活力の無さというか、抜け目無さの無さというか、自分で生活を構築する知恵も頓智も持ち合わせてないぼんやりした感じ。いえ、頭はいいんですのよ、世間知だってある、知能指数も高いし教養もあるし芸術への理解も深い。だけど、生まれも育ちも東京マダムはだいたいこんな感じで生きていらっしゃったの? そして生きてこられるものなの? 

あわあわと五十年暮らしてきて最後の最後に「私は、人生を棒に振ってしまったのだ。こんなつまんない男と一緒になって、教育をつけさせてもらったのに何者にもなれず、私の人生は一体なんだったのだ」と自問自答する。「離婚or夫(が稼いできてくれるお金)」という選択肢をつきつけられて「あぁ離婚なんて無理だわ」とよろめき婦人に突然変貌。年代からいったらこの主人公たちは川上弘美さんと同い年かそのちょっと上の世代のようだけど、常に居酒屋探訪なうみたいな川上弘美さんのあわあわっぷりとは方向性の違う、ぼんやりっぷり。親にさんざん素敵なレールを敷いてもらって教育を身につけさせてもらって「さぁ行きなさい、存分に生きなさい」とお膳立てしてもらって送り出してもらって、其の挙句「離婚or夫」も選択できず、「つまんない男をつかまえてしまった。わたしの人生はなんだったのだ」と。

なんだったのでしょうねー、一体なんだったのでしょうねー。

この主人公姉妹たちが唾棄すべき存在として見ている母親のほうが、よほど立派だったのでは? 「ママはいつ死んでくれるの?」と懇願された母親は若いころには鬱陶しいくらいの向上心をバネに、生活力を持ち、娘達にかなりまとまった財産を残します(亡父の遺産でもありますが)。そりゃー彼女の許しがたい一面には私も読んでて辛いほどでしたが、あのアワアワ姉妹に比べたらよっぽど立派ではないですか、二本の足でしっかり踏ん張っているではありませんか!
 
あるいは時代が変わったから、彼女たちが生きている時代と少しずれているから、ちょっと年上のこの姉妹をそういった目で私は見てしまうのでしょうか? それともそういう目で見てしまうこと自体が「年寄りと呼ぶには若すぎる」世代の下の世代の傲慢なのでしょうか? 傲慢だったらどうしよう、あとで「あんなこと云わなければよかった」と思うような羽目にあったらどうしよう、などと殊勝にガタガタしたりしてたりして・・・。

それに! 50代の世帯年収が1600万の子無し夫婦が、預貯金・株一切合切で約四千万っていうのもどうなのかしら。いえいえ、もちろんマンションもお持ちなので合算したら6500万くらいにはなるのでしょうけれども(2010年の相場で)、2016年の現在だったら「高所得世帯特有のメタボ財政」ってファイナンシャルプランナーに云われたり、発言小町に書き込もうものなら「私ならもっと貯められます(当然ローンは完済済みです、キリッ!)」とか云われちゃうんだろうなーとか、いろいろもう。小説の中の2人を値踏みして一体どうしようっていうの・・・わたくしもお行儀が悪い・・・。

などと、戦後生まれ特有の右肩上がりの時代を旺盛に謳歌してきた世代との格差を感じつつ、ノンストップ介護アクションを堪能いたしました。大変に面白かったです。

これ読んだあと、これを読むとまた堪えるかもしれないわね。うふふふ。
子の無い人生

4 COMMENTS

いち

ウカスガさんたら、何をそんなに自虐?本を読んでるのよ~。
こないだ入手した素敵なワンピ着て、
「将来のために生きてるんじゃないわ!
今のために生きているのよ!」と豪語して、
美味しいワインと良いお肉でもがっつり食べて
上向いてガハハと笑うと、
運気がぐいーっと上がるわよ。

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ふなき

「レールとお膳立て」に関してなんだけど、最近、よく思うのは、自分から欲して掴み取った道を行く人と、周囲が整えてくれた道を行く人は、同じような条件でも歩み方が全然違うのではないかと。お稽古事や進学など、親がかりの時でも、仕事を初めて自分がどのようなスタイルで働いていくかという事でも、自分で「かくありたい」というものを持っていて、多少の障害があっても、結局は自分の手でつかみ取った人と、そこまでの思いはなかったんだけど、なんとなく道が整備されていたので、そこを歩いています的な人とは話をしていても明らかに違うもの。それぞれに良さも欠点もあるのだろうけれど。
6月に出張があるから、この本、移動中にでも読んでみるわ!!面白そうな本の紹介ありがとう!!

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ukasuga

文庫版が出てるといいんですが。。ハードカバー版はなかなかの厚みでございましたことよ。

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