最近は優しい人しかでてこない/桜井のりお「僕の心のヤバイやつ」 鶴谷香央理「メタモルフォーゼの縁側」

僕の心のヤバイやつ 3 (少年チャンピオン・コミックス)

陽キャが憎くてたまらない…。
只今、中二病真っ最中の市川京太郎は、
学園カースト頂点の美少女・山田杏奈の殺害を企む!
だが、山田の意外な一面を知ってしまい…!?

「次にくるマンガ大賞2020」でWebコミック部門一位を受賞したというニュースで作品をしり、つらつらっと試し読みを始めたら思春期の淡い恋のもやもややもにもにしたした内容に「なんだこの可愛さは!」と足をジタバタさせ、一話読み終わるごとに布団をかぶり声にならない声をあげまたモキモキしちゃうという感情螺旋階段漫画。さぁ次の一話にも意を決して立ち向かおうと布団から顔をぷはぁと出すと、それを待ち構えていた猫にはたかれるなど稀有な読書体験をもたらしてくれるおまけ付き。少年の心の成長漫画は秋田書店に限るぜよ、という信頼のブランド! WEBではこちらから読めます。いやなひとが出てこない。

 

事情を知らない転校生がグイグイくる。 2巻 (デジタル版ガンガンコミックスJOKER)

からかわれてる女の子。
クスクス笑うクラスメイト。転校生の高田くんは、そんなクラスの事情は知らない。
だからまっすぐ、彼女に届く。
Twitterで話題 の青春ハートフルストーリー!

「からかうっていうけどそれってもういじめですよね? ひどい場合は傷害や窃盗に発展しますよね、犯罪ですよね? お願いだからそんなところまで発展させないでね」という読者のモヤモヤした思いを、事情を知らない転校生がぐいぐい薙ぎ払っていく。事情を知らない転校生は強い。主人公をからかう子たちが出てくるんだけど、事情を知らない転校生にうまく丸め込まれてしまい、いやなひとになりきれない、いやなひとが出てこない。

 

ギャルと恐竜(1) (ヤングマガジンコミックス)

ノリで始まった恐竜とのルームシェア!フツーにご飯食べるし、オシャレも楽しむ恐竜だから、ギャルといっしょの生活だって結構イケる。ムズかしいことはよくわかんないけど、毎日が楽しければ問題ナイっしょ!雑誌掲載用にギャルたちに描いてもらったロゴも収録なんで、よろ。

二階建てのアパートで暮らしてるコンビニバイトのギャル。飲んで酔っ払って連れて帰ってきちゃったのは恐竜。バイト先のギャルにビビっている先輩とひょんなことから仲良くなったり、元カレと復縁したり元カレママと何時間もおしゃべりしちゃったり。ヤンマガ読者の好きな女の子ってこういう感じなんだ、正しい、正しいぞと握りこぶしを作りながらも、簡単な描画の恐竜にちょっとにやっとしちゃう。いやなひとが出てこない。

 

メタモルフォーゼの縁側(1) (カドカワデジタルコミックス)

ふと立ち寄った書店で老婦人が手にしたのは1冊のBLコミックス。75歳にしてBLを知った老婦人と書店員の女子高生が織りなすのは穏やかで優しい、しかし心がさざめく日々でした。

女子高生との出会いで老婦人の世界が広がっていく、それに関わるひとたちの輪も少しずつゆっくりと重なっていく物語。三週間に一度のウェブ更新で、最近は毎話読み終わるごとにじわっと涙が出てしまう。老婦人市野井雪さんの娘さんは海外暮らし(実在の人扱い!)、女子高生も同級生が将来に向かって進路を決めているの脇で見ていたりする。時間は進んでいく。でも重なった輪がほどけていくことはないだろう。読者である私は近い将来に作品の中で起きるそれらを察して、毎回最後のコマでじわっと涙してしまうのだろう。ウエブで読む人はこちらから。いやなひとがでてこない。

 

最近のヒット作は、いやなひとがでてこない。現実社会がつらすぎるのか、いやな人がでてこない。現実社会にいやな人が多すぎるからか、いやな人がでてこない。こういう漫画を読んでほっこりしたい気持ちが増しているのか、いやな人が出てこない漫画を手元に置いておきたい。金塊を追った変態たちがでてくる血のたぎる冒険ロードムービー漫画とはまた別の癒やしですね。

 

さて、今月19日に発売されるその漫画です。いやな人は出てこないけど信念を持った変態がたくさんでてきます。みんな予約は済んだかな? 

ゴールデンカムイ 23 (ヤングジャンプコミックス)

これにあわせてというわけではないのだけど、いま、「関東軍」という本を読んでいる。1965年10月中央公論社から刊行されたものを、講談社学術文庫として2005年に出版した文庫本です。2020年のいまとなっては、それ違います、それ解釈違いですというところがあるようなのですが、なにしろ戦後20年に出版された本です、文章の圧というか生々しさが半端ないです。

関東軍 在満陸軍の独走 (講談社学術文庫)

あとがきは防衛大学校教授の戸部良一さん。著者の島田俊彦氏は戦前は聖心女子で教鞭をとっていたが、1942年に海軍の軍令部嘱託となり戦史編纂に従事した。

研究者の間で島田氏が高く評価されているのは、その優れた研究実績もさることながら、彼が保存していた資料のためでもある。大東亜戦争中に島田氏は海軍の戦史編纂にあたっていたが、日本が降伏したとき、焼却処分を命じられた軍令部保管の対中国外交・軍事関連文書を、あまりにも重要な歴史資料であるとして、焼かずして隠し持ってくれていたのである。

それらの史料は現在、東京大学社会科学研究所で「島田文書」として所蔵されているそうです。 「日本のいちばん長い日」で見たあのシーンの映らないところで、必死に戦時中の史料を守り抜いたひとがいたのです。黒塗りにしてはいけないと信念を持って立ち向かったひとがいたのです。こういう反省や振り返りをしているひとたちがいた中で、「それもう終わったことですし」と五輪の準備をしていたのかと思うと複雑な気持ちに。

鶴見中尉、最後はみんなで満州に行っちゃうのかなーなどと思いながら読んでます。満州かぁ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください