さうして天と地と草と木が/新宿区立漱石山房記念館 特別展「漱石山房の津田青楓」/雪 朱里「描き文字のデザイン」続き

描き文字のデザイン

雪 朱里さんの「描き文字のデザイン」を一冊じっくり読んでみて、あれ、なんか近くでこれを目で確かめるようななにかしらのイベントがあったはずと記憶をめぐらし、漱石山房記念館でやっている「津田青楓展」がそれにあたるんじゃないかしらと思いいたり、いってきました牛込柳町。漱石山房記念館の館長は夏目漱石の孫の半藤 末利子(まりこ)さん、先日亡くなられた半藤一利さんの奥様。新しく明るい建物で、館内の至るところで黒猫が道案内してくれる気の利いた記念館です。

早稲田駅から10分のようですが、私は牛込柳町駅から歩きました。神楽坂駅も圏内だと思います。

 

津田青楓は夏目漱石の門下生。常設展示の門下生コーナーに写真が残っていましたが、目が大きく鼻の筋の通った俳優みたいなイケメン。こちらで津田青楓のイラストを見ていただけます。漱石によく可愛がられ、夏目漱石のブックデザインを、長年手掛けていた橋口五葉(「描き文字のデザイン」でもページを多く割かれています)から津田青楓に交代したりします。また、漱石の死後は寺田寅彦や鈴木三重吉と親交し、寺田寅彦は津田青楓の作品を掛け軸にしたりするほど津田の作品を愛し、また鈴木三重吉とは三重吉全集の殆どのブックデザインをしています。

三重吉全集の愛らしさといったらそれはもうただごとではありません。リンク先の写真はいまいちですが、それでもなんとなく可愛らしさ・可憐さが伝わってくることでしょう。手に収まる小さな美しい布貼りの本です。小口の天は金箔で、背文字は夏目漱石、とても贅沢な童話集です。こちらに詳しい説明がありますので、三重吉にご興味がある方はぜひご一読を。

こんな美しい本を作るくらいなので、さぞかし鈴木三重吉の作品世界を理解しているのであろうと期待に胸を膨らませ、一緒に展示されていた津田から鈴木三重吉への手紙を読んでみました。すべて現代文に書き起こされているので読みやすいのです。
しかし、その内容は、なんというか身も蓋もないけちょんけちょんな言い様。こういうデザイナーの本音を綴った手紙が後世に残り、可愛らしい装丁の本を見て心なごませている未来の人間を軽く打ちのめしていくことになるなどと、津田本人はまったく想像していなかったことでしょう。未完成の第2話までを見て「残酷な天使のテーゼ」を作詞した及川眠子さんのことを思い起こしたりしました。どんな内容だったかは現地でご確認くださいませ。

常設展示コーナーでは橋口五葉の装丁した本が展示されていますが、本で見たものが目の前に立体物として存在している不思議。一冊の本がきっかけで世界が広がった思いがしました。しかしわたくしときたら、夏目漱石は夢十夜しか読んだことがなく(それも短くて読みやすそうだからという身も蓋もない理由から)、いまさらですが少しずつ読んでいこうと思います。

2021年3月21日まで。ご興味ある方はぜひー。

公式サイト:《特別展》漱石山房の津田青楓
美術手帖:夏目漱石も愛した「背く画家」。津田青楓の生誕140年を記念する展覧会が練馬区立美術館で開催

 

ミステリ小説「啄木鳥探偵處」とコラボした企画やってました。たいそう足の長い漱石先生のパネルを拝見いたしました。ゴールデンカムイの野田サトル先生の描くような「足の短い明治男」たち版でも一度見てみたいものだと思いました。
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