偲ばるるカザフの英雄ヴィノクロフ/映画「草原の実験」

草原の実験 【プレミアム版】 [DVD]

2014年製作/97分/ロシア
広大な草原地帯を舞台に、平和な日々を送る父と美しく優しい娘、そして娘に恋をする2人の青年のエピソードを一切のセリフを排して描いた異色作。ロシアの新鋭監督アレクサンドル・コットが、旧ソ連のカザフスタンで起きた実際の出来事に着想を得て作り上げた一作で、セリフなしの映像美で描かれる少女たちのささやかな日常に、徐々に意外な暗い影がさしこんでいく。2014年・第27回東京国際映画祭コンペティション部門に出品され、最優秀芸術貢献賞を受賞した。

久しぶりに寝椅子を出して映画をじっくり見た。神がかり的な美少女(韓国人の父とロシア人の母を持つエレーナ・アン)、大平原のなかの素朴な一軒家、「ガソリンを買うためのガソリンが必要な」土地で暮らす父と娘、素晴らしい映像美、計算され尽くした構図、丁寧な音響、世界のどの国でかけても理解が得られる無言のドラマ、そして衝撃のラスト。

スクリーンに映し出されるひとつひとつのシーンに登場するもの(プロペラ機、父親のトラック、赤い絨毯、青年が乗るバイク、彼女が指でなぞる世界地図、小さなトランクに詰めた荷物・・・)のひとつひとつにしっかりと役割と背景があり、この作品を形作っている一員であると雄弁に物語っている。そして衝撃のラスト。

いままでいろいろな映画で「衝撃のラスト」ということばが使われてきましたが、この作品を超える衝撃はなかなかないのでしょうか。見終わったあとしばらく呆然としてしまい、京都写真美術館で過去に行われた写真展のアーカイブをじっくり見たり、映画の背景の時代をざっと調べたりしてなかなか寝付けなかった。衝撃。衝撃だった。

東京国際映画祭にも出品されていたそうですが、その頃まったくノーマークだった。衝撃。機会がありましたらみなさまぜひ。

カザフの英雄と呼ばれた自転車競技のアレクサンドル・ヴィノクロフや、暴漢に襲われ死亡したデニス・テンのことを思い出したりして悲しくなった。悲しい。

 

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