最近の本と映画と春火鉢/「薩摩の密偵 桐野利秋」「開墾地」「サザエさんの東京物語」などなど

タリーと私の秘密の時間(原題 Tully)

タリーと私の秘密の時間(吹替版)

体重を22キロ増量したシャーリーズ・セロンが挑んだ産後ママ映画。女クリスチャン・ベール、アメリカの鈴木亮平女優とは彼女のことです、角度によっては上村美恵子に見えたりもします。裕福な兄の嫁は日本人設定ですが、演じているのは英国人女優エレイン・タン。日本人嫁がいる家庭なので、暖炉?の上の写真立てコーナーには振り袖を着た娘二人と写っている家族写真が並んでいる。突然「コニチワ」といったりもする。なんだなんだこの設定。

監督は「JUNO」、「ヤング≒アダルト」のジェイソン・ライトマン監督。
「それぞれの映画の主人公は、人生においての時間軸を把握できていないんだ。『JUNO/ジュノ』では早く大人になりすぎた少女を描いていて、『ヤング≒アダルト』は大人になるのが遅すぎた女性を描き、今作では親になったことで強制的に成長しなければならない女性を描いているんだよ」

夜中のドライブのシンディ・ローパーは全女子が涙するんじゃないでしょうか、私は泣きました。良い映画でした。シャーリーズ・セロンが好きで見はぐっている方はぜひ。

イーディ、83歳 はじめての山登り(原題 Edie)

イーディ、83歳 はじめての山登り [DVD]

二人暮らししてきた病気の夫を亡くし、一人暮らしの老婦人イーディ。娘は老人ホームに入れようとするが、お試し入居のイーディにはあんまり老人ホームが楽しくない。「お母さん、娘のわたしのいうこときいてよ」と懇願するが、母はこう返す。
「おかあさん、子供の世話をして、病気の夫の世話してたら、人生が終わっちゃうところなの! どうしてくれよう(意訳)」
「夫をなくした老婦人が人生を改めて切り開く」ものだと本邦には『海が走るエンドロール』や『メタモルフォーゼの縁側』などの良作がありますが、本作のそれらとの違いは夫を別に愛してもいなかったという苦い事実。
そんな彼女が思いついたスコットランドのハイランド地方のスイルベン山への登山。古式ゆかしい登山道具を背負い込み、寝台特急で彼の地に乗り込んだイーディを待ち受けていたものは・・・

ハイランド地方のスイルベン山があるのはこんなところ。

標高731mの高尾山くらいの山だけど、496m登らなくちゃいけないし、なにしろ登山の登り付きまでに距離がある。「はじめての山登り」などというふわふわしたサブタイトルがついてますが、季節は秋で寒暖の差も激しく、上下水道すべてが整備されている高尾山に行くような気楽な山登りではござんせん。その山へ撮影当時83歳のシーナ・ハンコックさんは自力で登ります。そしてその山へ登った最高齢者の記録を更新します。そういう意味でもなかなかすごい映画でした。

毒夫、理解しているようでしていない自分の娘、若者の老人への意地悪な目線、若い男の適当なアドバイス、傷ついた人をそっとしておいてくれる優しい人、日本もイギリスも変わらない人間模様が描き出されています。これは見逃さないほうがよい映画です、100分映画です、みなさまもぜひー。

そして早速ハイランド地方に行ってみたくなりました、早く1ドル50円くらいの円高になってほしい。早く!!!

ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え! (原題 Bill & Ted Face the Music)

ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!(吹替版)

ハッピーでかわいらしい健全な物語と、もっとハッピーになるエンディング。あのエンディングだけ動画にして配信すればいいのに。ところで、キアヌ先生はギターも弾けるんですねぇ、多才~!

サザエさんの東京物語(長谷川洋子)

サザエさんの東京物語

長谷川家三姉妹の末っ子洋子さんが描いた長谷川家の上京物語。画才の鞠子、漫才の町子、文才の洋子、そして博才の母、そんな四人家族の奮闘記。おかあさまのことを「博才」といいましたが、だって、あなた、戦後すぐ「福岡にいてもしょうがない!東京に戻るわよ」とえんやこらやと上京し、落ち着いてからは桜新町の芋畑を「この土地がようこちゃんにあげましょう。きっと役に立つ時が来るから」として買いもとめてるんですよ。あの思い切りの良さ!! 

その時母から渡された、私名義の権利証によれば、坪単価金2000円とある。ただの芋畑が50年後に何百倍になるとは誰も思わなかった時代で、東京はそれほど焼け野が原で空き地だらけだったのだ。母は、自分の畑として、用賀も安い土地を買った。

還暦近くになってから洋子は姉の鞠子・町子と袂を分かちます。そして母のくれたその土地にアパートを建て生活基盤はしっかり、自分がやってみたかったこととして出版社を立ち上げ、ベストセラーも何冊か出す。姉たちと別れることにより、洋子さんはやっと自分らしく生きることができたのだ。そう、母親が残したその土地こそが揉めごt・・・いやなにゲフンゲフン!

この本の中には「あれって、実話だったのか!」とか「元ネタはこれだったんかい!」というエピソードがたくさん出てくる。たとえば・・・

ノリスケさんところにイクラちゃんが生まれて赤ちゃんの事故防止のサークルを買ってくる、これで安心ねとタイコさんがにっこりとセッティングするのだがイクラちゃんの暴れん坊っぷりは収まらない、四コマ目ではそのサークルの中でちゃぶ台を囲み食事するノリスケさんとタイコさんの姿が・・・・。

これは、洋子さんの実体験だそうです。サザエさんの四コマには泥棒がよく出てくるけれど、今になって思うとほんとうに実際に身近にいたんだろうし、外車オーナーでパテックフィリップをつけながら農作業をしている世田谷の農家のおじさんが大変な土地持ちで「資産が増えるばかりですわ、がははは」と自慢気に笑うのですが、四コマ目で「でも娘は嫁に行かず!」とサザエさんに突っ込まれて「シュン!」とする話とか、あれもほんとうに「桜新町に実在したおじさん」の話なんだろうな。世田谷区、おそろしかー。

大好きだったけどちょっと嫌いだったお姉ちゃんへの屈折した姉妹愛。でもほんとうは大嫌いだったのかも。長谷川町子ファンの方はぜひ。新発見がいろいろあると思います!

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薩摩の密偵 桐野利秋―「人斬り半次郎」の真実 (NHK出版新書 564)

薩摩の密偵 桐野利秋―「人斬り半次郎」の真実 (NHK出版新書 564)

大河ドラマの放送終了後のTwitterでちらちらお見かけする歴史作家のご本がKindle Unlimited に出ていたので読んだ。さる漫画家さんが「キンドルアンリミのおかげで家賃が払えるようになった」といってたので安心してバンバン読むようにしている。

桐野利秋、別名人斬り半次郎。小山ゆうの「お~い竜馬」の桐野利秋の死に様の姿が印象深く、勇猛果敢な脳筋体力バカかと思っていたら、普通に優秀で武術にも秀でた武士でした。

桐野利秋は西郷隆盛と同じ「城下士」に属していたため西郷に重用され、陸軍少将へまで出世する。

「薩摩藩史の研究家の原口虎雄氏によれば『(明治維新は)西郷をピラミッドの頂点とする城下士内部の革命に過ぎなかったといえよう』という指摘をしている。換言すれば、御小姓与集団による『革命』だったということである。

城下士というのは、人口65万余人の薩摩藩の中で四割近く(24万人)を占める武士のうちの一割に属する上級武士たちのこと。西郷も大久保も大河ドラマの中では大変な貧乏に描かれてはいたけれど、家格としてはエリート階級に属していたので、あれまでの出世・栄達ができたのだと。ちょっと待って、薩摩藩って江戸時代後期で65万人も人口いたの? ちょっとちょっと豊かすぎるのでは! しかし、そのような視点で見てみますと、そんな日本の一番南の藩の一部の人間たちの勢いに、あの時代の日本がまるごと巻き込まれてしまったと思うと、ちょっと異様です。しかしかれらも最後には西南戦争で精算するはめになったということです。

その他桐野利秋メモ
・上田藩士の赤松小三郎を惨殺した。時代を先読みした頭のいい人だったけれど、京都の温度感が把握しきれておらず、暗殺されてしまった。ひどい! 司馬遼太郎がこの人の物語を描いていれば、上田市の観光要素がまたひとつ増えたのに。
・北海道の屯田兵の立案は桐野によるもの。なんと! 彼がいなかったらゴールデンカムイも生まれなかったというわけです。感謝!
・明治四年に上京した桐野は譜代大名榊原家の下屋敷「池之端邸」を購入。当時500円で買ったものが征韓論で下野する際に売り放したが数千円になったという、お買い物上手! なおそのお屋敷は後に三菱財閥の岩崎久弥が購入し、現在は瀟洒な洋館が観光名所となっている。
・桐野利秋の愛用の刀は和泉守兼定。土方歳三と同じ。ふたりは刀友・・・

西南戦争の見積もりがびっくりするくらい甘くて、現代の読者の私もびっくりした。熊本城で大暴れした後、田原坂から鞍岡を経て人吉に戻ったとき、そこで降参すればよかったのでは。なのに宮崎に逃げて、桐野は戦争紙幣を作ったり(延岡でたくさん使われたそうだ、最終的には踏み倒されただろうから、延岡のひとたちは西郷一味のこと嫌いなんじゃないの?)、宮崎をさんざん焦土にしたあげく、結局鹿児島に戻っちゃって! 「結局アイツらに加担するならよ、小樽で捕まったときにそうすりゃ良かったろうが」という白石の気持ちがわかる、とてもよくわかるっ!

とてもおもしろいご本でした。鈴木亮平が苦悶して「晋どん、ここらでよか」といって幕が閉じる西南戦争のこともよく知ることができたし。

開墾地(グレゴリー・ケズナジャット)

開墾地

サウスカロライナの田舎で、日本からアメリカに渡り強烈な繁殖力を発揮してしまった葛と、主人公とは違う母語を持つ父親が格闘する物語。

アメリカの土地と相性が良すぎたのか、日本の葛が強烈すぎる。気の毒になるし、申し訳なくもなる。イギリスでは同じように虎杖が大変な猛威を振るっているらしい。生命力が強すぎて不動産価値が暴落するほどの被害を出していると聞く。その生命が、輝くか輝かないかはその置き場所に左右されるわけですが、きみたち・・・やりすぎ・・・。この葛被害について調べていくうちに天敵相という言葉があることを知りました。葛の除去は体力も使う重労働で、外国からやってきたあの黄色いコスモスっぽい花がかわいく見えてくるレベルです。ほんとうに申し訳ない・・・。

本としての佇まいがとても美しく、フォントサイズもばっちり。よいブックデザインです。早く映画化してほしい、90分くらいが望ましい。

 

あたたかくなって新しいTシャツを買わなくっちゃルルルンと、「伊勢丹で買ってその場で着て買える(新宿五七五)」をかましましたが、その翌日からは時折ヒーターをつけたくなる寒さに。春火鉢という季語がイキイキと感じられる二週間でございました。

 

『室生犀星作品集・57作品⇒1冊』

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