強欲資本主義 ウォール街の自爆

ヒヒヒヒグマ更新~。3点更新~。
強欲資本主義 ウォール街の自爆 (文春新書)
強欲資本主義 ウォール街の自爆 (文春新書) 神谷 秀樹
2008年10月20日発行のこの本、私はこの神谷秀樹(みたにひでき)という方をまったく知らなかったのですが、住友銀行出身のアメリカで活躍する投資銀行家の方だそうです。日経ビジネスオンラインでも連載コラムを持ってらして、本日早速そのページをブックマークしました。
さて、このご本、まっとうなものを作ったり、こつこつとよいサービスを提供してきたり、葱や白菜やお米を作ってそれをお金にしたり、牡蠣やあわびを市場におろして生活したりする、普通の経済感覚(分相応にお金があればいい、それ以上あればうれしいけど、なくても全然困らない)を持つ生活者たちにはまったく理解できなかった『アメリカの金融市場の暴走』について詳しく解説されています。まったくね、アメリカはいったいどうしちまったんでしょう。神谷さんは、金融工学で使われる複雑な用語ではなく、「信用の輪」という言葉を使って、その「暴走」というものの正体を看破してくれます。
現在、国際金融市場で起こっていることを一言で表現するならば、「信用の輪がズタズタに切られている」ということではないだろうか。
「信用の輪」とは何も難しいことではない。人と人との間において「返せないお金は借りない」、「借りたお金は耳を揃えて返す」、「相手が返せないようなお金は貸さない」、「むやみに連帯保証人にならない」といったごく当たり前のことである。
しかし、世界的な空前の金余りの状況が続き、こうした価値観が「記入技術の発展」(証券化、デリバティブ、レバレッジ、ノンリコース)という美名のもとにすっかり壊されてしまった。取って代わって尊重されるようになった価値観は、よくぞここまでと思うほどの目を覆わんばかりのモラル・ハザードである。
曰く「借りた金で今日を愉しむ」、「借りた金で投機する」、「貸せる金は融資基準をいくら下げても貸し込め。そのローンを束にして売ってしまえば、不良化しても自分の損にはならないから」、「ノンリコースで借りた金は、返せなくなったら担保物件の鍵を渡せば終わり。値上がり益は僕のもの、値下がり損は君のもの」、「連帯保証など怖くない。眠り口銭(手数料)が入ってくる」といったものである。私はサブプライム危機が表面化する遥か以前の二〇〇六年頃から、やがて経済危機がやってくると警告を発し続けたが、理由はここに述べてきたモラル・ハザードをずっと目にしてきたからである。まともな心を持っている人が見れば、こんなことを続けることができないのは余りにも明白なことだった。

強欲の皮もつっぱりすぎると、自爆するっちゅう話ですわ。しかし自爆規模がでかすぎて、最初に書いたまともな経済感覚の生活者までが巻き込まれるっちゅーのがほんとに解せない。あいつらとはぜんぜん違う流れの中で生きてたのに、なんで逃げ切ったヤツらのケツ拭く手伝いさせられるの?、と。
この本の最後は、彼の『最近会った友人たちの印象深い話』で締めくくられる。私にとってもこの内容は印象的でした。
「もう、要らないものを消費者に買わせたり、買わせたものはできるだけ早く陳腐化させ、新製品に買い換えさせるというビジネスモデルは崩壊したのではないかと思う。消費者は明らかに、もっと精神的な満足を求め始めている」(大手エレクトロニクス・メーカー社長)
この談話がいつのものか知りませんが、消費者は、もう、ずっと前からそう感じていたと思います。本当に2000年からこっち、みんなもう飽和状態だったと思います。
大手エレクトロニクス・メーカー社長という立場にある方が、この現状を現実のものとして認め、実際にこの発言を口にするには、ものすごく勇気がいった話だと思います。だけど、それはもう、みんな薄々気づいてる。残念ながら本当にもうみんな気づいちゃってる。
今年はリーマンショックやらなにやらで、ガラポンの年だと再三感じる機会がありました。いろんなカラクリの仕掛けがバレちゃった一年でもありました。カラクリの仕掛けがバレる、ということは、今まで築き上げてきた信用の仮面がはがれたということでもありましょう。
神谷さんは「信用を築き上げるのに10年、その信用を失うのは一瞬」と何度も書かれていますが、これはまったく至極まっとうな商い人としての一常識。商いをやっている人間なら誰もが肝に銘じておくべき話。それを失ってしまって、目の色変えて(本当に目の色って変わるから怖い)、他人の懐からどう分捕ってやるかなんてことばかり考えて生きていくなんて! とかまぁこんなことを書いている間にも、荒波がわんわんとうなりをあげていますが、今日も私は粛々と生きる、良心は失わずに粛々と暮らしてゆきたいと思うのです。
そんで「もう大量生産の時代じゃないんだよ!」と10年前からいっていたI氏のウェブサイトが立ち上がりましたのでお時間があるときにぜひ!
議題解決にワークショップ技法を-東京ライフスタイル研究所
【百貨店、GMS衰退の本当の理由】【ルイ・ヴィトンにも陰り?】、この二つのコラムも「カラクリがばれちゃった案件」の話だと思います。この2本だけでもどうぞ。
うわーん、最後に、商いに関連して泣ける話。
【思い出の商品 もう時代遅れ】
と思ったら、冷泉さんのJMMが面白かったので転載。
(米国ビッグ3の再建問題に関して) 経営陣の質と組合との歴史的経緯、この二点以外にもデトロイトの「敗戦」に至っ
た構造的な原因はたくさんあります。まず、指摘できるのは、アメリカという風土の問題でしょう。広大な北アメリカ大陸は、確かに膨大な自動車の需要を生み出したわけで、正に20世紀の初頭に「流れ作業による内燃機関を使った移動車両の大量生産」という文明がこの地でスタートしたのは当然だと言えます。ですが、この広大な北アメリカ大陸には特徴があります。それはプレーリー(大平原)からグレートプレーンズへと続く巨大でフラットな空間を持っていたことです。
 この地域の「平べったさ」は昼間の大陸横断便などで上空から見ると良く分かりますが、本当に平らなのです。そのために、開拓の時代から農地開発も、都市開発も碁盤の目に沿った形で進めることができています。アメリカの地図を見ますと、この中部に関しては州境も、郡や市町村の境界も、そして高速道路網も全て碁盤の目になっています。その整然とした幾何学模様を見ていますと、この地で自動車による交通が発達したのは至極当然に見えるのですが、実はそこには大きな弱点がありました。
 それは、西部山岳地帯とアパラチア以外のアメリカの道路は、どこまでも真っ直ぐで真っ平らだということです。その結果として、アメリカには「ヘアピンカーブの連続」や「軽快に駆け抜けられる中速コーナー」などというものはほとんどないのです。
ですから、ハンドルを回すのは車庫入れや駐車(それもだだっ広いので日本や欧州のような微妙なテクは不要です)と交差点の右左折、インターチェンジの出入りだけ。
つまり、タイヤが外へ行くような遠心力を感じながら、あるいはタイヤがそれに耐えられずにクルマが内側に滑りそうなカーブをどう曲がるか、という問題はアメリカのドライビングにはないのです。
(中略)
 こうした条件下、アメリカのドライバーの運転技術は平均的にかなり低いと思われます。オートマチック車が早期に普及したことから、マニュアル変速機を使える人はほぼ絶無、パンクしたクルマをジャッキアップして緊急用タイヤに交換したり、バッテリーが上がった場合に、他のクルマから電源をもらって始動したりという、日本や欧州では当然ドライバーに求められる動作もできない人が多いのです。恐らくは急ブレーキを踏んでのパニックストップの練習や、横滑りを回避するカウンターステアといった安全面での基本動作なども、ダメな人がほとんどでしょう。
 とにかく「走る」「止まる」「曲がる」といった自動車の三要素に関して、極めて低い性能しか求められないのが北米の自動車市場なのです。では、アメリカのクルマが全くダメかというと、必ずしもそうではないのですが、とにかく消費者にクルマの本質的な性能を見る目がないので、半端な性能のものが許されるのです。勿論、アメリカの消費者が何でもいいと思っているわけではありません。荷物の収納具合、五人乗車時のスペース、あるいは六人乗り、七人乗りといった収容人員、更には飲み物を置くホルダーが人数分必要だとか、長旅の間にディズニーのDVDを子供に見せるための後席用の上映設備だとか、色々なニーズはあります。
 ですが、クルマの基本性能に関しては「消費者の厳しい目」が働かないのです。扁平タイヤや軽金属のホイールはファッションに過ぎないし、七段変速の最新式の自動変速機技術だとか、直6(ストレート6)かV6かというシリンダ配置の違いとか、最少回転半径だとか、ハンドリングのクセ、など日本やドイツの技術者が必死にチューンした付加価値も全く理解されることなく、単にベンツだからレクサスだからというブランドとしてしか消費されないのです。サスペンションのフィーリングも硬いとか柔らかいというだけで、コーナリングのロールやその粘りといった点は北米市場では全く関係ないと言って良いでしょう。

へー。なるほどねー。頭文字Dとか流行る土壌もないんだろうねぇ。
  

4 COMMENTS

ようこ

わー。こんなところで「東京ライフスタイル研究所」のIさんを拝見するとは思いもかけませんでした!
前職で受けた研修の講師だったIさん。
その後も、細々とながら大変お世話になっておりました。ちょっと感動しました・・・。
(Iさんとはお知り合いなんですか?なんだか知り合いの知り合いで、不思議とご縁がありますね。。。)

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スガ

えーそうだったのですくわっ!!!
I氏とはかれこれ10年来の親交がございます。97年からですんで、11年ですね。ぎゃっ、そろそろ干支一周のつきあいです。よくよく(微)妙なご縁があるのですね、ようこさんとは・・・。あとでメールします。

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かちゃにゃ

出久根さんが古書店を畳んじゃったのって
作家の仕事が忙しくなったからとか
家庭の事情とか思ってたんですが
そんな理由があったとは…(涙)

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スガ

> 教養というものが重視されない現代を、先の古書価が如実に表しております。
しんみりしちゃいますよね。。ほんとう。。

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