なぜお米があまっているのに、これ以上お米をつくるのですか?

http://www.shonaimai.or.jp/situmon/dfc/d_7.html#4
 その質問に答える前に、なぜお米があまるようになったのかについて、考えてみましょう。今から50数年前に、日本がアメリカなどの大国に無謀な戦争を挑み、そして負けたことは、みなさんも知っていますね。戦争には兵士としてたくさんの人が農村からもかりだされ、そして多くの人が死んでしまったため、戦後、お米や農産物を作る労働力が極端に減ってしまい、日本人が食べる分のお米を作ることさえ、できない時代があったのです。その時期には、アメリカをはじめとする外国から、小麦や大豆などを輸入し、何とかしのいできたのです。しかしお米の生産技術が進歩し、ベビーブームなどで人口も確実に増えていき、いつしか(昭和40年代なかばころ)必要な量を上回るお米を生産することができるようになったのです。
 ここでひとつ、かくれた問題点があります。アメリカはこうなることを予測し、当時から小麦を積極的に日本に輸出し、日本人にパン食の習慣をつけることを、強力にあと押ししてきたのです。しかしこれはただ単に、アメリカが自国内であまってもてあましていた小麦を、強制的に日本に売りつけただけに過ぎず、けっして食料不足になやむ日本を助けようと思ってやったことではないのです。その結果、昔からの日本食は衰退し、君たちの中にもたくさんいるかも知れませんが、パン食をする人たちが増え、お米の消費量がどんどん減ってしまったのです。もちろん、ラーメンやスパゲッティなど、ほかの小麦製品に移り変わっていったこともありますが、そもそもは、アメリカの小麦輸出政策によるものなのです。そして減ってしまったお米の消費量はその後、今日にいたるまで上向くことはありませんでした。
 現在、日本人のお米の消費量は1年間に60数キログラムくらいですが、これは戦前の半分程度でしかありません。つまりアメリカの戦略にまんまと乗せられ、食文化さえもアメリカの都合の良いように変えられてしまったのです(アメリカは小麦をたくさん作っていますから、当然小麦を外国へたくさん輸出してお金をかせぎたいわけです)。
 ここで、少し前になりますが平成5年の大冷害の年を思い出してみてください(と言っても君たちは小学校に入学する前の幼稚園児や保育園児だったはずなので、覚えていない人も多いかも知れませんが)。この年の夏はとても涼しくて、お米の生産量が、ふだんの年にくらべて2割くらい減ってしまいました。そのため国内の必要量が足りなくなり、きん急に外国からお米を輸入しなくてはならなくなりました。お米屋さんの店頭には、今まで見たこともない外国産のお米が並び、量的には一応こと足りるようにはなりましたが、しかし食べ慣れた国産米を買いたい人たちでお米屋さんに長い行列ができるほどで、日本中、大パニックになってしまいました。日本でとれるお米は、学術的には「ジャポニカ種」と呼ばれる、ずんぐりして粘りの強いお米ですが、世界的に主流となっている粒の長いパサパサした「インディカ種」とはちがう種類なのですから、味もぜんぜんちがいますし、国産米を欲しがるのも当然と言えるでしょう。それほど日本人の食習慣にマッチした、日本独特のお米なのです。
 でも考えてみてください。生産量がたった1回、2割減っただけで、日本中がこれだけパニックになるのです。お米は農産物ですから、工業製品とはちがい、天気によって良くできる年とあまり良くとれない年があるのは当たり前ですね。不作になってからあわてて「どうしよう」と考えるのがはたして賢いやり方なのか、それともあらかじめ不作になった時のことを考えてお米をたくわえておく方が良いのか。みなさんももう、おわかりですね。
 けれどもこういったことをお話しすると、中には知ったかぶりの人もいて、「日本は工業国なのだから、工業製品をどんどん輸出して、それで儲けたお金で、食べ物は価格の安い外国からどんどん買えばいいじゃないか」という人たちがいます。ここでもうひとつ、みなさんに興味深いお話をしましょう。
 いま世界の人口はどんどん増えていて、1995年には57億人だったのが、2000年には61億人、2010年には69億人、25年後の2025年には80億人になると言われています。そしてこの30年間に増える23億人のほどんど大部分が、アジアやアフリカなど発展途上国を中心とした地域に集中していて、これだけの人口をやしなうためには、今よりも世界全体で70パーセントほど農産物の生産量を上げなければいけないと予測されています。生産量を今の 1.7倍にするということがどれほど大変なことなのか、みなさんにもおわかりでしょう。日本の稲作技術も戦後、改良に改良がかさねられて進歩をきわめ、いま完成の域にたっしており、これ以上伸ばすのはむずかしいと言われています。
 それに25年後と言えば、君たちも35~36歳くらいになっていますね。ひょっとするとみなさんの子どもたちが、ちょうど今のみなさんと同じように小学校5年生くらいになっているかも知れません。いま日本は、世界のありとあらゆる国や地域から、金にあかせて食料を買いあさっていますが、それらの国ぐにも、25~30 年後にはきっと台所事情が苦しくなっているはずです。その時、いったい日本人の主食であるお米や他の食料を、金があるからと言ってはたして外国から簡単に買うことができると思いますか。どの国だって、自分たちの国民が食べる分を優先させるはずですし、その時代には、ただ単に金があるからと言って、食べ物を買えるとは限らないのです。どうですか。自分たちが食べる食料は、少なくとも自分たちで作れるだけの体勢をととのえておく必要があると、感じませんか。それに、いま日本はただですら経済不振にあえいでおり、世界一の借金国としても知られています。25~30 年後も日本が金持ちだなんていう保証すらないのです。
 今でさえ、世界の子どもたちは、君たちと同じくらいの年齢の子どもたちや、もっと幼い子どもたちが、毎年たくさん、飢えで命を落としています。食べるものも食べられずに、小さな小さな命を終えていくのです。貧しくて食べ物が買えない人たちもたくさんいます。たとえば1999年のユニセフの調べによると、アジアでは、わずか5歳まで生きられない子どもたちが、1年間に何と 676万人もいます。つまり毎年676万人の子どもたちが死んでいるのです。これは日本で1年間に生まれる赤ちゃんの数127万人の5倍以上に相当します。乳幼児 1,000人当たりの死亡率も、日本はわずか6人なのに対し、アジア全体では108人にものぼります。10人に1人の赤ちゃんが、飢えや病気で命を落としているのです。ちょっと想像してみてください。君たちの学級1クラスが40人だとすると、君たちのうちの誰か4人が、すでにこの世にいないことになるのです。日本は今、それらの貧しい国ぐにから、金で食料をうばっているのです。国内のお米があまっているのに。確かに日本は土地や人件費(「じんけんひ」=給料のこと)も高く、その他の経費もかかりますから、農産物は日本で作るよりは外国から買った方が安いのかも知れません。でもそうした行為が、今も言ったように、発展途上国の子どもたちの未来をうばってきたのではありませんか? お米があまっているのなら、小麦やほかの農産物の輸入をやめて、もっとお米のごはんを食べて、お米の消費量を伸ばすようにするのが、いちばん筋の通った考え方ではないでしょうか?
 ただでさえ、今の日本は、お米も含めた日本人が食べるすべての食料のうち6~7割を、外国に依存している(輸入している)という危機的な状況にあるのです。たった今、ほんのここ数年、国内でお米があまっているからと言って、ただちにお米を作るのをやめて良いのでしょうか。田んぼはいったん作るのをやめると、あっと言う間に荒れ果ててしまいます。そしてもとの田んぼにもどすには、何年もかかるのです。いざという時のために、そして君たちが大人になる近い将来のために、もっと踏み込んで言えば、君たちの子どもたちが社会をになう遠い未来のために、田んぼや畑や、海や川や森や、きれいな空気など、食べ物を作るための手段を、少しでも多く今のままで残しておく必要があると思うのです。そしてそうすることが、いま大人である私たちの、そして君たちの先生や、お父さん・お母さんたちの役割だと思うのです。
 日本も、ただお金で食べ物を買うだけでなく、自国の農産物の生産量をもっともっと伸ばしていって、こういった途上国の子どもたちに食べ物を分け与えてあげることができたら、どんなに素晴らしいことでしょうか。これはけっして理想ではなく、君たちの手できっと将来、実現して欲しいことだと思います。
 誤解のないように言っておきますが、アメリカはあれだけ工業製品を輸出していますが、れっきとした農業大国です。自分たちの食べる分は、自国内で生産できる手段をきちんと確保しておいて、その上で、工業製品を輸出しているのです。これはアメリカだけでなく、ドイツやイギリスやフランスなど、他の先進国と言われるような国ぐにも、すべて同じです。日本もそうあるべきだと、みなさんも思いませんか。
 話が少し長くなってしまいましたが、この質問がとても大きな問題を含んでいたので、ちょっとむずかしいかな、とは思いましたが、日ごろ私たち農家や農業関係の仕事で働く人たちが考えていることをお話しました。もしわからないことがあったら、この手紙を先生に見せて、先生から良く聞いてください。

2 COMMENTS

さくまり

先日の「お米の値段」のときも思ったけど、こういうのこそ学校やテレビでやるべきだよねー。
今から京都に行ってきます。

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スガ

京都は土曜に行ってきました。あいにくの雨でしたが、見事な桜に出会うことができました。眼福ー! 

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