デスパレートな妻たち／「アメリカ社会」入門

『デスパレートな妻たち シーズン1』を、寝る前にちょっとずつ見て一週間かけてシーズン１を見終わった。ＮＨＫ総合の海外ドラマの枠でもよく放映しているので、ご存知の方も多いでしょう。
郊外の都市にあるウィステリア通りに住む4人の女性のそれぞれの悩みやトラブルを抱えた生活を、ミステリーやユーモアを交えて描いたドラマである。本国アメリカでは視聴者数ランキングのトップ5内に常に位置する人気ドラマ(from Wikipedia）。
良妻賢母でカリスマ主婦のブリー、だけど実は家庭の中はズタボロ。キャリアウーマンの地位を捨てて主婦になったけど、子育てに気の毒なくらい悪戦苦闘中のリネット。家事が下手でどじでそそっかしくあらゆるところで、他人にとっては壊滅的なトラブルの種を作ってしまうスーザン。ニューヨークで活躍していた元トップモデルにして超物質主義者、庭の手入れのバイトをする高校生とセックスを重ねまくるガブリエル。その４人の主婦を中心にしたドラマ。裕福な方々が住む街なのかもしれませんが、以下私のツッコミ。
この豪勢なおうちはどうやって建てたの？
息子へ贈るその車もローンで買ったのかい？
だいたいにして暮らし向きが過分だろ！　
でも食は質素かもね（ブリーの家以外は）。
いや、質素というか、手抜きというか、単純というか。
で、それはいいんだけど、このドラマを見るのと同時にコリン・ジョイスというちょっと風変わりで頭脳明晰なイギリス人の書いた『「アメリカ社会」入門』というＮＨＫ新書を読んでいたの。ニューヨークの話題が多いので、アメリカ全土には通用しないかもしれないけど、「デスパレートな妻たち」との内容がいくつか重なって見え、興味深い本でした。
アメリカ人は、イギリスのおかしな階級制度に対して非難がましい目を向ける。だが、彼らは、自国の階級制度がいかに強固なものであるかについてはまったく盲目だ。
（中略）
しかし、階層によって、でかけるビーチまで違うとまでは思わなかった。イギリス人のぼくにとって、ビーチとは階級差がなくなる場所である。どんな個人も所有できない海のそばに、さまざまな出自の人が集まり、貴重な公共の場穂を楽しむ－－ビーチとはそういう場所だと思っていた。ところが、アメリカでは、夏、どのビーチに出かけるかで、その人の社会的地位がはっきりとわかるのである。
この後、ニューヨークの人がよく行く三つの海水浴場について解説が続きます。コニーアイランド（漫画で読んだことのある地名）、ロングアイランド（本格小説で読んだ地名）、ニューヨークから１００マイル離れたハンプトンズ（セックスアンドザシティで、シャーロットが二十代のボーイフレンドに毛じらみを移されたあのビーチ！ SEX AND THE CITY Season2 Episode17 若い女の特権）。日本にもそういう場所がないわけではないですが、こんな国で、キング牧師の「私には夢がある」と語ったあの夢は、いったいいつ達成されるのでしょう。
階級社会というか、決して実現されることのないアメリカン・ドリームについてまた別の視点から。
不思議なことに、アメリカの政治制度もまた、実力本位というより封建的である。（その後、ヒラリー・クリントンの最大の功績は政治家と結婚したことだけなのに、今やあの地位ですよ、などといった文章が続き－－中略－－）現代のイギリスにおいて、三世代にわたって閣僚を輩出した家系は、二家族のみである。また、現在の下院で、過去に下院議員を務めた親類を持つ議員もごく一握りだ。
イギリスは、世襲議員の立候補については、日本に比べて厳しい条件が課せられているとなにか読んだことがありますが、それにしても二家族だけというのは、なかなかな数字です。日本の閣僚だって、世襲じゃない人を探すほうが難しいというのに。。
日本にいるとき、もっとも違和感を覚えたアメリカ人たちの習慣は、彼らが「ネットワーキング」と呼ぶ活動だ。最初、この言葉を聞いたとき、イギリス人は誰もなんのことかわからなかった。だが、アメリカ人は、ネットワーキングにたいへんな時間と労力をつぎこんでいる。週末のビールの誘いを断る人もいたくらいだ。その後、ぼくはネットワーキングの意味を知って、ぞっとした。アメリカ人はこんなことを、それも公然と恥ずかしげもなく行っているとは！　日本で経験した唯一にして最大のカルチャーショックかもしれない。
　ネットワーキングとは、簡単に言えば、自分の役に立ってくれそうな人と会って、知り合いになろうとすることである。こうして人脈を広げておけば、仕事を見つけ、キャリアを高めるのにつながるだろうし、少なくとも、自分のやりたい仕事についての知識を深める機会になるというわけだ。たしかに、理にはかなっている。しかし、これはイギリスでは、立身出世のために有力者に取り入って、ゴマをする行為とみなされる。この点に関しては、ぼくは旧いタイプの人間だった。かりにぼくのキャリアにつながる地位にいる友人が、自分からぼくに援助の手を差し伸べてくれたとしても、ぼくはその申し出を断ったことだろう。自分たちの友情が打算に基づくものではないと示したいからだ。
日本発の各種自己啓発本などにもこの『ネットワーキング』のようなことをどんどんしよう！ということが書かれているのを見つけます。初対面の人とフレンドリーにかつにこやかに、さらに社交的にふるまうことが苦手な日本人に、なぜこんな罰ゲームのようなことを課すのか、前々から不思議に思っていましたが、なるほど、モトを辿れば、アメリカンドリームがあると信じているアメリカ人のアゲアゲ上昇志向が編み出した社交術に行き着くのね（上昇志向が悪いことだとはまったく思っていません）。
さらに自己啓発本つながりで。
アメリカ社会では、往々にして、各人の抱える問題は即物的に解決可能なもの、解決すべきものと見なされるようである。不幸せに感じるならば、精神分析医にかかればいい。あるいは、ライフ・コンサルタントや、デート・アドバイザーだっているという具合だ。こうした高価なカウンセリングのほか、一般向けには、自己啓発書（self-help books）という問題解決法も用意されている。おそらく、このような類の本が大量に出版されているのは、アメリカくらいのものだろう。多くのアメリカ人の心の中には、より幸福で、より完全な、より素晴らしい自分がつねにいるらしい。そして、その自分にめぐり会うためには、数ドル支払って、自己啓発書を買い込み、 中に書かれているアドバイスに従いさえすればよいのである。
（中略）
最近では、自己啓発書市場は年に二十億ドルもの規模に達するらしい。本全体の売れ行きがだんだん悪くなっているというのに、一〇年前の一九九八年と比べてほぼ四倍の数字である。なかでも図抜けて売れているのは、一九三六年に出版されたデール・カーネギーの『人を動かす』だ。（中略）また、あまりに自己啓発書の種類が多いので、『自己啓発書五〇選　あなたの生活を変えるヒントとなる五〇冊の本』とかいった自己啓発書選びの自己啓発書まで書店には並んでいる。
自己啓発書ブームは、勝間さんの年収10倍アップの勉強法以来、日本でだってすさまじいものがあるわよね。
本では、さらに『完璧な自分』『幸せな自分』を手に入れるために、あらゆる努力を重ねていくことについて語られているのですが、それは日本も随分アメリカ化しちゃってるんじゃないかなーと考えたくなるものでした。
ブラピとアンジーのMr.&Mrs.スミスは、離婚の危機を迎えた二人がカウンセラーに語りかける場面から物語は始まるのですが、「カウンセラーに相談したところで、夫婦の危機ってどうにかなるものなんだ！」とおのろいた記憶があります。
『デスパレートな妻たち』でも、ブリーとレックスがカウンセラーのもとをたずねたり、着実にロクデナシの道を進む息子を更正施設に入れちゃうんだけど、それってまさに「数ドル払って、安寧をつかむ（しかしそれが実際に達成されるかどうかわからない）」ことなんだなー、と。
もちろん、このコリン・ジョイスさん、ちょっと風変わりでイギリス人イギリス人した人かもしれませんが、デスパレートな妻たちとは大変食い合わせのよいエッセイでした。その他ニューヨークはなぜビッグアップルと呼ばれるのか、「ゴッサム」はバッドマンがモトネタじゃなくてニューヨークが先なんだよ、などというコネタ・薀蓄も。
一番笑ったのはここです。
会話を円滑に進めるためなら、ぼくはアメリカ英語の言い回しを使うのを躊躇しない。（中略）ただ、これだけは譲れないので、次のようにいうようにしている。
「フットボール、いや、アメリカでいうサッカーのことだけどね」。
圧巻！
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全然関係ないけど。
・きゅうりの値上げについて愕然としましたが、そのとき一緒に買った網の袋に入ったオクラは値段変わらず１５８円で、オクラはハウス栽培だから生産が安定してるのね、などと思ったワタクシ。。家に帰って袋をあけてさて刻むかと思ったところ、いつもは１０本入ってるのが８本に減ってやんの・・・ガッデーム！　カムバック・サーン！！！！！