イブラヒムおじさんとコーランの花たち、ひかりビデオで。
1960年代のパリ、裏通りのブルー通りで暮らす13歳のユダヤ人少年モモと、近所の小さな食料品店兼雑貨屋を営むトルコ系移民のイブラヒムおじさんの交流を描いた映画。
60年代の裏通りの暮らしぶり、かわいい壁紙やインテリア、娼婦たちの鮮やかでいてどこかつつしみがないわけでもないサマードレス(デスパレートな妻たちのほうがよっぽど露出が高いぜ!)などが、その時代のヒット曲を交えながら、丁寧に描かれている映画で、時代の香りプンプン、ひかりビデオの配信終了間近枠の中からピックアップしてみたけど、これはよい映画でした。
イブラヒムおじさんは、イスラム教から派生したスーフィー教を信仰しています。おじさんはモモをつれて故郷への旅に出ますが、途中、スーフィー教の教会(といっていいのかな? 間違っていたらごめんなさい)に立ち寄ります。
そこでは、彫りの深い顔の男性たちが白いボレロに、白いワンピースのようなものを身に付け、一心不乱にくるくる回っています。回旋舞踊と呼ばれるもので、神との一体化を求めた信仰の踊りです。両手を挙げ、恍惚の表情で彼らは踊ります。スカートは床をこするほど長く、ひだも大きくとってあり、それがふわりと、大きく広がり、自ら風をはらみ、くるくるくるくると回り続ける姿は、それはそれは美しいのです。
それを静かに見つめるモモに、イブラヒムおじさんが語りかけます。
グルグル回れば 心の中に神が宿る
これは祈りだ
放心状態になって平衡感覚もなくなる
彼らは松明になり炎の中で燃え上がる
まるで詩です。
このシーン見られただけでもめっけものかも。
イブラヒムおじさんはモモに人生でたいせつなことをたくさん教えてくれます。その教訓もまた美しい。「ぼく、モテないんだよ」「自意識過剰だからさ」とか、「行列のできる店や繁盛店をやるつもりは全くなかったんだよ。細く長く、スローライフってやつさ」とかもうステキステキ。
『ボルベール』とか好きな人にオススメしたい、あ、多分、マーケット的には1989年公開の『ニュー・シネマ・パラダイス』ファン向けだと思う。