思い出す猫のフミフミトルストイ/トルストイ「人にはどれだけの土地が必要か」

 

 

一日中寝ている猫が、なぜ人間の寝る時間になるとのこのこと布団の上にやってきて、ひとしきりフミフミしたあと、飼い主の体の上で香箱姿となりくつろぐのか、そして「このまま寝てしまうのかな?」というほどの時間が経ってから、「はっ、わたし、人間の上で! なんてこと! 昼間は突然襲いかかってきたり(抱っこしたいだけです)、ずもーって頭を飲んだりする(猫を嗅ぎたいだけです)人間の上で、なんてことを!!」とばかりにガブッと私の顔を噛んで、お腹をどんと踏みつけてどこかに飛び去るのは一体なんなのか。そして家の中で取れ得るかぎりの一番長い直線距離を数度往復ダッシュし、爪とぎの柱でバリバリと爪を研ぎ、その後憑き物が落ちたかのようにすっきりした顔でまたフミフミしにくるのは一体なんなのか。
そのフミフミの時間も長い。胸の上から始めお腹のほうに後ずさりするようにしてフミフミ。そこでターンしてお尻を私に嗅がせながらフミフミ。そんなに私の毛布を耕したところでなにもありはしませんぞよ、というくらい念入りにフミフミ。

猫がそうやって私の毛布を私ごと耕している間、トルストイの童話を思い出していた。私が子供の頃に読んだのは「人にはどれだけの土地が必要か」というタイトルの子供向けにまとめられた短い物語。他には「人間にはたくさんの土地が必要か」「人にはどれほどの土地がいるか」などのタイトルもあるようです。Amazon のKindle unlimited で開放されていたのでフミフミされながら読んでみた(「イワンの馬鹿」は青空文庫で公開されています)。お話はこんな感じ。

 

パホームという農夫がいた。土地を借り農夫として働き、稼ぎは上々で小金も貯まってきたが、いかんせん人に土地を借りて農業をやるというのが気に入らない。いつか自分だけの農地を手に入れたいものだと考えていたところ、旅の商人からうまい話を聞かされた。東のバシキール人たちからたったの千ルーブルでいい土地を買わせてもらった、あのひとたちは放牧暮らしで土地に執着がないのにくわえ、紅茶を分けてあげればなんなく懐柔できるよ、という。それならばとお金と紅茶を用意して、パホームは下男を連れて7日かけてバシキール人の土地へ歩いていく。土地では歓待され、千ルーブルで好きだなけ土地を買っていいという話を取り付ける。

「一日自分で歩いた分だけ土地を差し上げる。しかしそれには条件がある、日が暮れるまでに出発点に必ず戻ってこなくてはならない」

そんな簡単な話なら大丈夫だとパホームは安心し、一晩休んで翌朝、夜が明けるか明けないうちにバシキール人を起こし、そろそろ出発すると告げる。バシキール人は一日中、出発点で待っていてくれるという。彼らの見送りを受けてシャベルを担いで歩き始めるパホーム。どの方角を見てもよい土地で、範囲を決めきれないほどだ。パホームは太陽の位置を確認しながら、必要なポイントをシャベルで掘り目印をつけていく。

午前中は体調もよく作業も進んだが、お昼を過ぎた頃には自分が随分遠くにいることに気が付いた。気温も上がり、疲労も重なってきてなんだか息苦しい。しかし歩く先歩く先、良さそうな土地がある。それらをまわってシャベルで掘り続けていく。自分が欲張りすぎたと気がついたときは太陽はかなり低くなっており、豆粒ほどに見えるバシキール人たちのもとへ急いで戻ろうとする。沈む太陽と競うようにしてパホームは走る、急げ急げと声をあげるバシキール人たち、死にものぐるいで走るパホーム、沈みゆく太陽。

太陽が沈むのと同時に出発点に戻ることができたパホームはその場に倒れ込む。バシキール人の酋長は「たいしたもんだ、随分と広い土地を得ることができただろう」とパホームを褒め称えようと抱き起こすが、彼は血を吐いてこときれていた。パホームの下男は、「パホームに、ちょうどきっかり足から頭まで入るだけの二メートルとちょっとくらいの墓穴を掘って、彼を埋めてやった」。おしまい。

2 COMMENTS

いち

ロシアのこういう話って、「子どもに恐怖を与えちゃいかん」的な
忖度改変されてないのが多いから、
ラストが深過ぎて「………ヒィィィ」だわあ。
この話も冷や汗出るよねえ。

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ukasuga

あの物語の中で語られている悪魔って、やっぱりロシア正教の解釈の中での悪魔なんですかね? 当時のロシアの状況がいろいろと気になってきました。

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