目刺し焼くトランプみたいな義父のいて/映画「ブロークバック・マウンテン(原題 Brokeback Mountain)」

ブロークバック・マウンテン (字幕版)

古い映画なので、物語のあらすじを全部書いてしまいます。
ネタバレがお嫌な方は、あらすじを飛ばして感想へどうぞ!

監督と出演者

2005年アメリカ映画、監督は台湾人監督のアン・リー。主演は、ヒース・レジャーとジェイク・ギレンホール、女優陣はミシェル・ウィリアムズ、アン・ハサウェイ。

アン・リー監督作品。

 

ヒース・レジャーは『ダークナイト』のジョーカー。

 

単純で無邪気な役どころを演じていることを見たことがないジェイク・ギレンホール。

 

ミシェル・ウィリアムズは、ヴェノムで「えっ、あのそのミニスカート・・」とモニョっとさせてくれたあの彼女。

 

我らがアン・ハサウェイ。わっかーい、かっわいいー。

 

驚いたのは、主要人物が全員脱いでいるところ。ヒース・レジャー全裸、ジェイク・ギレンホール全裸、ミシェル・ウィリアムズ上半身裸、アン・ハサウェイ上半身裸。男性陣の脱ぎっぷりがワイルドに過ぎて、えっわっえっと。
冷たい水の川にタオルを入れ、固く絞り、全裸になり体を拭いているシーンの荒々しさといったら、ひぃぃ。もしかして2001年公開の水曜どうでしょう「ユーコン川160km」の大泉洋さんが、このシーンのモデルになっているのかもしれません。

あらすじ

あらすじはAmazonから。
アカデミー賞最優秀監督賞を含むを3賞を受賞した「ブロークバック・マウンテン」は、1963年に運命の出会いを果たしたヒース・レジャーとジェイク・ギレンホールが演じる2人の20年間にわたるカーボーイの友情を超えた物語。

両親が早く死に姉と兄に育てられたカウボーイのイニス(ヒース・レジャー)は、ある年の夏、山岳地帯で羊の放牧の仕事にありつきます。そこで一緒に働くことになったロデオボーイのジャック(ジェイク・ギレンホール)。二人はワイオミングの山の上(ロケ地はカナディアンロッキー)で羊たちの面倒を見ながら、町へ降りることもなくひと夏を過ごすことになります。

二週間ほど放牧仕事をしているうちに二人は打ち解け、ある夜、一線を越えます。あらーーー。こういうのゴールデンカムイでみたことあります。

この夜のことは、イニスにとっては非常事態に追い込まれると人はなにをするかわからねぇもんだなという程度のものだったのかもしれません。イニスは、子供の頃、村人にリンチされ殺されたゲイのカウボーイの死体を見たことがあります。ゲイというものは隠すべきもの、人に知られたら殺されても仕方ないものという意識で生きています。しかし、二人で山麓放牧キャンプ生活を満喫しているうちに気持ちが変わってきたのかもしれません。

仕事のほうは散々です。キャッキャウフフと楽しく過ごす様子を双眼鏡持った牧場主に見つけられるわ、コヨーテに羊を食われるわ、仕事としてはダメダメマン。「あっ、あれは山の上だけの思い出だからな」「おっ、おぅ」という挨拶を交わし二人は別れます。

山を降りた二人はそれぞれ結婚し、所帯を持ち、子供を設けるのですが、あのブロークバック・マウンテンで過ごした夏が忘れられない。二人は所帯を持ったあとも、「男同士でキャンプに行くだけさ」とたびたびと逢引を重ねるようになり・・・・・

トランプみたいなルックスのトランプみたいな義父

ジェイク・ギレンホール演じるジャックは、ワイオミングのトラクター販売業の父を持つアン・ハサウェイと結婚します。このリッチな義父が、ジャックのことを「ロデオ」と呼び常々バカにし、嫌っていることを隠しません。昔からの価値観を変えることはまったくなさそうな、お腹のでっぷりした金髪の大柄なアメリカン親父です。絶対共和党支持者です。自分の婿はゲイじゃないのかとうっすら気がついているのではないかとも思われます。この義父との軋轢が、ジャックを現実逃避の既婚者二人のゲイキャンプへ追い立てていきます。

一方、牧場でしか生きることのできないイニスは、二人の子供を抱えながらも街で暮らしたがる妻(ミシェル・ウィリアムズ)とだんだん溝が生まれていきます。街での家賃を稼ぐために妻も仕事に出るようになり、一日一日を乗り切るだけで精一杯。

そんなある日、旧友のジャックがやってくるという知らせが二人のもとに届きます。ジャックがやってくる日、到着を待つイニスは一日中ソワソワソワソワ、いざ到着したら階段を駆け下り物陰にジャックを引きずり込み、我慢しきれず熱い抱擁と接吻を交わします。「旦那おっそいなー、お友達いつ部屋につれてくるんだろ?」と窓を開けた妻は、アパートの敷地の隅っこで二人が友情以外のなにかを感じさせる抱擁をしている場面を見てしまいます。

「なんだってーーーー!!」

「旦那が友達だといってる男は、友達以上の存在で、旦那はバイセクシュアルで、私は一体なんなの。子供を生む器械?」と、ミシェル・ウィリアムズの地獄の日々が始まります。もともと貧しかった若い二人の夫婦は数年後に離婚し、彼女は勤め先の主任と再婚します。

アン・ハサウェイは、一人息子を優雅に育てながら、父親のトラクター販売業を手伝い仕事は順調。自分の旦那がたまにフラッとキャンプに行くという行動がなんであるかもなんとなく予想がついているようですが、金もあるし自分の情熱をぶつけられる仕事もある。流行の髪型をくるくると取り入れ、ゴージャスなファーのコートを着て社交もしてる。そんなことにいちいち目くじらを立てる必要もない。

ブロークバック・マウンテンの夏から20年経とうという春のある日、二人はキャンプにでかけます。ここまで時間が経過すると二人の貧富の差は歴然としてきます。
昔から着ている色褪せたコーデュロイのジャケットを着ているイニス。襟の部分のボアは毛羽立ち、何年も洋服を買い替えることができないのが見て取れます。
それに対し裕福なジャックは、軽くて温かい最新のダウンジャケットを羽織っている。二人が乗っている車もあからさまにランクが違う。アメリカ中を自由に旅できるジャックがその行く先々でちょいちょいつまみ食いをしていることを知っているイニスは、激しく怒ります。「なんだよ、あんなのただの生理行為じゃないか(うろ覚え)」と答えるジャック、あ、これもゴールデンカムイの「親分と姫」編でこういうシーン見たことある。

二人は仲違いしたまま、キャンプ地を後にします。それからしばらくして、ジャックの元にあげた送った葉書が「差出人死亡」というスタンプが押され戻ってきます。イニスは、ジャックの妻(アン・ハサウェイ)に連絡を取ります。すべての指に指輪をはめた彼女は電話で淡々とジャックは事故で死んだと伝えます、あらかじめそう話せと誰かに言い含められたように、筋書き通りに伝えます。それを聞いたイニスは、ジャックの本当の死因がなんなのか悟ってしまいます。

ゲイであることを理由に、ジャックはリンチにあったのだ。
俺が子供の頃にみた、あのゲイのカウボーイと同じ目に遭ったのだ。

ジャックは、遺灰をブロークバック・マウンテンに撒いてくれと遺言を残していました。イニスはジャックの老いた両親のもとに出向きます。家具の少ない古い家屋で、貧しく質素な暮らしが画面からも伝わってきます。ジャックはまともな支援をしてこなかったのでしょう、ひでえ話です。

イニスは遺灰を山に撒きにいきたいと伝えますが、父親に断られます。見かねた母親が「ジャックの部屋を見てあげて」と、彼が子供時代を過ごした部屋へ招き入れます。部屋のクローゼットには、あの夏の日、イニスがキャンプ地でなくしたと思っていたシャツが掛けてあり、それを見て(中略)イニスはあの夏の日の、あの愛を永遠に忘れないと誓うのでした。おしまい。

感想

・2005年当時にこの作品を見たら、私は一体どんな感想を抱いたのか。ミシェル・ウィリアムズの地獄にそれほど共感できなかったのではないか。また「ゲイってこういうことするんだ・・・」ということばかりに目を奪われて、間違った明後日の方向に進みかねていたかもしれません。当時よりはいろいろと落ち着いてこれらの事情を俯瞰できる年齢でこの作品に触れることができてよかったと思う。

・トランプ大統領みたいなジャックの義父、ああいう男が北米大陸にはまだたくさんいるのだろうか。物語の時代から50年近く経って多少は変わってきているのだろうか。そして多分、この義父が、ジャックを死に至らしめたのではないかと思う。直接手をくださないにしても、そういう方向に持っていったのではないか。恐ろしいことだ。

・映画では1963年から1983年までの20年間を描いていますが、大型トラクターの販売で一気に経済成長していったジャック家と、古い価値観を捨てることができず貧乏なままでいるイニス家とジャックの両親の家の格差が大きすぎて、映画ながらも目をそむけたくなるくらいだった。
イニスは最後、トレーラーハウスで暮らすことになりますが、彼がもしいまも生きていたら80歳前後か、一体どんな暮らしをしていることか。娘たち二人が面倒を見ているのか。あの娘たちは、1983年という時代だったら今ほど固定化されていなかっただろうから、まだ上の階級に進むことができたのか。

・1963年から83年までのアン・ハサウェイのマダムっぷりがぐんぐんあがっていくのが見ていて楽しいです。ファッションや価値観が目まぐるしく変わっていく20年間を早回しで見ることができ、大変よい。風俗史料としても価値がある。

・1969年に行われたウッドストックが、画期的だったというのもいまならわかる。この物語でいったら、イニスが離婚する前、なんとか夫婦としての体面を維持している頃の話だ。カウンターカルチャーというものが生まれる理由が、こういう映画を見ると理解できる。映画大事。

 

「全部貧乏のせいだ」と言いたくなる場面が何度かでてくる。63年から83年までの猛烈なアメリカの経済成長とともに、経済的格差の固定化が始まる一端が垣間見える場面がある。アメリカの家父長制とはなんぞやと考え込んでしまう場面もある。アン・リー監督がこの作品を作ったときはそんなつもりではなかったかもしれないけど、この映画が世に出てから15年、映画で描いた小さな事象が大きなものとして北米大陸に横たわっているような気がしてなりません。面白かった。Amazon Prime video で。

1 COMMENT

いち

日本上陸のときにこの映画観たよ……。
愛し合ってるときほどちゃんと話そうよって思った。
愛し合ってると言葉なんか要らない、
一緒にいればすべてわかるみたいに思っちゃうんだろうけど、
そういうときにいろんなこと話して説明しておかないと、
崩れかけたら話すチャンス掴むのも難しくなる。
なんかそんなこと思った記憶があります。

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