金土日は藤沢周平

たそがれ清兵衛 (新潮文庫) 隠し剣秋風抄 (文春文庫)
金曜土曜日曜はたっぷりと藤沢周平につかる。そんなにつからなくても・・というくらいつかる。まず、文庫版の『たそがれ清兵衛』と武家もの・市井ものとりまぜた短編集『闇の穴 』を。文庫版の『たそがれ清兵衛』は、なにかしらあだ名のついてしまった(しかしだからといって人にバカにされたりすることのない、人品いやしからぬ)腕の立つ下級藩士の物語を集めた短編集です。私は映画になるくらいなので、長い話なのかと思っておりましたが、実際は、30ページ弱の短い物語だったのですね。
小説の中の清兵衛はものすごくかっこよく、カバーイラストを描いた村上豊さんが「私が後ろ姿を描いたのは、清兵衛が格好よすぎて顔が描けなかったからです」とメッセージを寄せたくらい。
勢いづいて映画『武士の一分』の原作となった「盲目剣谺返し」が収録されている短編集『隠し剣秋風抄』まで手をつける。『隠し剣秋風抄』と『たそがれ清兵衛』はどちらも海坂藩を舞台にしており、どちらも百石以下の藩士が主な主人公。しかし、『隠し剣秋風抄』は暗い、全般暗い。短編集のトリを飾る「盲目剣谺返し」のラストがさわやかで暖かいものだったから救われたけれど、本当に暗い。秘剣を使うような人たちが陽気で明るくっても困るから、このくらいのほの明るさがちょうどいいのかもしれないけどね。
小説を読みふけった後の土曜の夕方は、一件のヒグマニア事業と、夜は子羊しゃも鍋大会。帰りに六本木のツタヤに寄って(ヒグマボンが置いてないでやんの!)、原作・藤沢周平×監督・山田洋次三部作のイッキミナイト開催。
たそがれ清兵衛
たそがれ清兵衛
真田広之,宮沢りえ,小林稔侍,山田洋次,藤沢周平,朝間義隆
まず、2003年(第76回)アカデミー賞において外国語映画賞にノミネートされた「たそがれ清兵衛」。真田広之と宮沢りえのあらゆる動作が美しい、庄内地方の小藩の風景も見事に再現された精密に美しい映画。宮沢りえ共同幻想的なものを感じながらも、もー衿の抜き方の美しさと育ちのよさと頭のよさと凛々しさと武家に生まれた女性の筋の通った強さがよく出ていて、惚れた! 真田広之の大一番前の大失恋、田中泯ワンマンショーなど見所満載! 中間役の神戸浩さんがちょっと好きになった。構想10年、時代考証1年というだけあって、細部にわたってリアリティが。農家・商人・武家の女の衿の出し方のはっきりとした区別とか、上がりかまちをあがったときにてぬぐいで足袋の裏の汚れをささっと払うしぐさとか、今までの時代劇になかったリアリティを感じられた。あとね、『月代の伸びた頭』とか『継ぎだらけの着物』『穴だらけの足袋』ってああいうものをいうんだーというのを実写で見られてスガ感激。こりゃー確かにむさくるしいわ。電気のない時代の夜の茶屋があんなに煌々と明るいわけないじゃーんと、時代劇を見てよく思うけど、そういうツメの甘さ皆無の映画で、山田洋次の満を持して感たっぷりの映画! 
隠し剣 鬼の爪
隠し剣 鬼の爪
永瀬正敏,松たか子,吉岡秀隆,小澤征悦,田畑智子,山田洋次,藤沢周平,朝間義隆
次に永瀬正敏・松たか子の『隠し剣 鬼の爪』。んむーぅー、身分の違う二人の淡い恋を軸に、幼馴染の謀反とその討手役を仰せつかってしまった主人公の葛藤と決闘を描いた物語。主人公の片桐宗蔵(永瀬正敏)につかえる中間役はまたも神戸浩さん、うふふん。田畑智子が永瀬正敏の妹役を好演。こういう武士って実際にいたんだろうなと思わせる永瀬正敏の力強い演技にちょっとめろめろっとくる。この人、意外とチョンマゲと侍装束が似合うのよね、ねー。時代劇慣れしていない人かと思い込んでいたけれど、武家の男らしい凛々しい所作のひとつひとつにプロ根性を感じさせられました。あとね、高島礼子がぞっとするほど色っぽい。こりゃー文章に描かれた以上の色っぽさ。緒方拳が悪の大玉だったんだけど、もうちょっとわかりやすい悪役さんでもよかったなー。緒方拳って悪役にするにはいいイメージが強すぎてのぅ。
物語のラストはとてもさわやかで、私は不覚にも(全然不覚じゃないんだけど)涙を流してしまいました。こういうラストで泣かせるなんて、あぁた憎いじゃないの! 人を死なせておいてやれ泣けさぁ泣けどんと泣けという映画とか見るとうんざりする。まぁ実際にそういう映画は見に行くことはないんだけど、もうちょっと視聴者をバカにしないストーリーはないのかね?と思ってしまうのじゃよ、じゃよー。
武士の一分
武士の一分
木村拓哉,檀れい,笹野高史,小林稔侍,緒形拳,桃井かおり,山田洋次,藤沢周平,平松恵美子
最後に、木村拓哉の『武士の一分』。親戚筋に大物俳優を配すという山田洋次独特のキャスティングがございますが、「たそがれ清兵衛」は丹波哲朗(すげーよかった!)、「隠し剣」は田中邦衛(田中邦衛はどの作品に出ても田中邦衛だった!)、「武士の一分」は桃井かおり! 桃井かおりの武家の奥様装束、結構よかったわよ。今回は、中間役は笹野高史さん。いいなー笹野さん、好き好きー。壇れいさんの美しさが際立っておりました。妻のうまみ・・・。
以上どっぷりつかった雨の金土日・藤沢周平三日間でございました。
あぁ楽しかったー!

土曜の午後のヒグマニア事業というのは、アスペクトさんの担当編集者さんとの出版後記的対談でございました。担当さんには「いやぁおっさんですね」「ほんとにおっさんです」「文章が四十代」などとたくさんほめられました。話をしていて、なんとなく、奥さん(彼女)がヒグマ写真を見てにやにやして、旦那さん(彼氏)がキャプションを読んでにやにやする、というのが理想のヒグマボンの読まれ方ではないかと思いました。
アスペクトさんのヒグマニア紹介ページから。
http://www.aspect.co.jp/np/details.do?goods_id=1058
いいあとがきもついてるよ!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください