教科書は魔物明日は鏡割/株式会社アサツーディ・ケイ 岩村暢子著「変わる家族・変わる食卓」


※写真は本文と関係ありません。

 

マーケティングの仕事をしているある男性がTwitterで「変わる家族・変わる食卓くらい読んでから出直してこい」という内容をつぶやいていて、私もなにか仕事を進めていくうえでのヒントが身につくかしらと思って読みはじめてみた。古い本だったので図書館で借りた。んもう、衝撃だった、いろいろが衝撃だった。

本の紹介はAmazonのサイトから。
1960年以降生まれの主婦を対象とした家庭の食卓調査「食DRIVE」から今日の家族の実態を考察。お菓子を朝食にする家族など、家庭の食の激変を分析し、従来のマーケティング調査法では見えない真実を明らかにする。

この本は2003年に出版された。2000年頃に行われたこの調査で対象となったのは1960年以降の生まれの主婦。おそらくその親世代は1930-1940年前後の生まれ、その子は1985-1995年の生まれ。このアンケートの時点で子どもであったひとたちは、現在は社会で新卒や新卒以上中堅未満なポジションで働いていることだろう。そういう前提で2020年のいま読み進めていくと、ここ数年で感じたいろいろなモヤモヤやネットなどでみかけた珍妙な事象が発生した理由がつるりと理解することができた。

飲み会の席で「好きなもの頼んでいいぞ」と上司に言われポテトフライ単品を頼んだ新卒がいるのも、問題のある子を社外で面談しようとスターバックスに連れて行ったときもりもりのフラペチーノ系を頼んだ部下がいるのも(姉の体験・支払いは姉)、「私って○○が食べられない人じゃないですかぁ」とあたかも動かしがたい身体性のように好き嫌いを公然と宣言する女性がいるのも、若い世代の会話で「いままで誰も説明してくれなかったのでよく存じ上げておりませんでしし、まるで理解できなかったわけじゃなかったんですが、今回このような機会で説明をいただき理解できることができてよかったです」という意味合いの「あ、そゆことね」というセリフが頻繁に出てくるのも、出汁屋さんがこんなに流行りみんなが珍重し買い求めるようになったのかも、キッザニアのような子どもの教育を外注化するようなサービスが生まれ流行っているのも、真冬の夜の中華料理屋でサンダル履きの両親と一緒にいた夏もののワンピースの上にダウンコートを羽織った小学生ガールが「おなかいっぱいになった。帰るとき起こして」と中華料理屋のベンチ席でゴロンと横になって寝始め、両親はスマホみながら「○○さんハワイいったんだー」「へー(よくある低音のへー)」とやりとりをしているのも(最近の私の体験談)、5ちゃんねるの既婚男子スレで「嫁が料理に珍妙なアレンジするのを止めてくれ」というスレッドが人気なのも、結婚しているであろう男性が自宅に食事が用意されているかもしれないのに会社帰りに必ずコンビニに立ち寄るのも、朝の地方のコンビニで朝食を買いに来ているお母さんと子ども連れの姿を見るのも、いい年したおにいさんがハンバーグやカレーライスが好きと公言してはばからないのも、グルメ漫画は昔からあったけど料理の方法を手取り足取り教えるような料理漫画が近年格段に増えたのも、リロさんのホットサンドメーカーで作るゴリゴリな料理に人気が集まるのも、節分と恵方巻のように季節のイベントと食が強力に結び付けられることが増えたのも、クラシルのようないきなり動画の料理アプリが人気になるのも、いろいろが腑に落ちたー! そしてオチにも腑に落ちた。

日本人の食の崩壊(崩壊というか変容)がここまで進んでしまった理由はなんだろう。主婦たちへ丁寧なヒアリングをしていくと、女性の社会進出だけが原因でなかったりする姿もあぶり出されていく。オゥ、それは身も蓋もない理由だった、オゥ。そして、読み終わったとき、のりつけ雅春さんの「消防車が来ない話」を思い出した。

「どうして家庭の食がこんなに崩壊したんだよー」

「そう、誰も教育しなかったからである」

 

母は、義父の葬式を自宅で出した。近所の女性たちの助けを借りながらも、すべての料理を仕切り、大物だけは食堂に頼み、残りはすべて自分で仕切った。昭和52年の話です。お年取りの料理も、お正月のおせちも、地域のやり方にのっとり完璧にこなす人だった。料理が好きで、上手だった。

母が亡くなってからはそれを再現している、東京の集合住宅のあたたかい一室で再現している。あの寒いというよりは冷たいといってもいい田舎の台所でなく、ぬっくぬくの快適な台所でである。三女だからか母はあまり料理をやれとは言わなかった。姉たちが正月料理のレシピを断片的に引き継いでいるのでそれを統合して再現した。

テフロン加工の鍋も少ない時代によくもあんな根気のいる焦げ付きやすい料理を毎年毎年続けてくれたものだと、今になってありがたく思う。今年は実家のお正月を再現しようと、姉たちにレシピを聞いたり、地元の情報サイトに頼ったりした。貴重な情報なのでこのページを削除しないようにぜひお願いしたい。

 

マーケティングのヒントになる本だと思って読み進めているのに、アクロバティックな家庭運営の数々の証拠にいちいち驚いてしまい、全然マーケティングについてのヒントが入ってこないーーーと不安に思いましたが、終章あたりでいまの生活のなかで見られるいろいろと結びついてくる事案がでてきて、あ、ほんとにこの本、広告代理店が綿密な調査のもとに書き起こした未来を予見したリサーチ本だったんだと納得できるつくりなのも圧巻。面白かったです。進めてくださった方(別に私に進めてくれたわけじゃない)、ありがとうございました。

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