南の島の甲子園―八重山商工の夏

野球ネタ三連発。
南の島の甲子園―八重山商工の夏
南の島の甲子園―八重山商工の夏 下川裕治
2006年の夏の甲子園といえば、甲子園球史に残る圧倒的に面白い夏で、ハンカチ王子の斎藤佑樹、今季パリーグ防御率5位の楽天・田中将大、その他鹿児島工業の今吉君やら、静岡商業・ハニーフェースの大野君など、なにか高校野球という枠を超えた、漫画みたいに面白い夏じゃった。私も準決勝の日は甲子園の外野席で、早稲田実対鹿児島工、駒大苫小牧対智弁和歌山を観戦した。人生最初の甲子園がこんな好カードだったなんて、あぁ、なんてラッキーだったことでしょう!
その2006年夏の甲子園には、初の離島からの出場ということで話題になった石垣島の八重山商工も出場している。八重山商工はこの年、春夏連続出場を果たし、その中心的存在の選手が現在ロッテの一軍の大嶺祐太投手。大嶺はこの夏、札幌でダルビッシュ相手に投げぬきプロ初勝利をあげた。プロ2年目のことで、あたいもテレビの前でニュースを見ながらじわっと涙したものです。
八重山商工は、その年の春の甲子園に出てからドキュメント番組に何度も取り上げられ、伊志嶺吉盛監督のこともずいぶんと話題になった。市のゴミ収集の仕事を請け負いながら監督業をやっている、野球漬けの毎日で離婚を二度経験、大変口が悪く選手に「死ね」だの「ベンチから去れ」だの暴言を吐き、ミスをすればケツバットもしょっちゅうのこと・・・いったいどんな人生を送ってきた監督なのかと興味を持ったが、そのすべてはテレビ番組からは伝わってこず、なんとなくテレビカメラの前ではうまくかわしているのではないかとさえ思っていた。そんな監督のキャラクターにも興味が惹かれた。そして、あの甲子園からすでに2年。
私はこの本を昨年買っておいたのだけどなんとなく読む気がしなくて、そのままにしておいた。昨夜読み始めたら止まらなくなってしまい、朝まで読みふけってしまった。読み進めながら、こんなのんびりした島の子が、よくプロ野球選手としてやっていけてるな、と何度も何度も心配になってしまう。
「のんびり」と一言で言ってしまうには大変躊躇われる島民性や、八重山諸島全体の経済事情。私も、暮らすのには困りはしないが現金収入が多くはない家に育ったので、島の事情もなんとなく想像がつく。本島と石垣島は距離にして410kmも離れており、遠征するとなれば飛行機を使うことになる。その金額、往復3万円。本土の私立高校で野球ができる環境にいる子や親にとってはどうってことない金額かもしれないが、ひとつの部活にしか過ぎない「野球」をやっている、石垣島の公立高校に通う家族にとっては大変な負担だろう。
そんな環境の中で、伊志嶺監督率いる少年野球チーム・八重山マリンズが全国制覇を果たし、マリンズの児童たちが中学生になったときに作ったチーム・八重山ポニーズはアジア大会制覇を果たす。石垣市長たちが「これはひょっとすると、彼らが離島から甲子園への夢を果たしてくれるかもしれない」と言葉にし、離島から甲子園へ、という夢のプロジェクトが始まったのじゃった・・・・・
この作品は、2006年度ミズノスポーツライター賞・最優秀賞受賞作でもあり、高校球児のさわやかドキュメントというよりも、このドキュメントの書き手の下川氏が伊志嶺監督と年代が近いためか、かの監督の不機嫌そうな顔が終始ちらつく泥臭いドキュメントでした。そして、私が八重山商工について読みたかったのは、こういうドキュメントでもありました。浜田昭八さんの「監督たちの戦い」に近い印象。八重山商工については「家族のような」という形容がよくされていましたが、本当の家族だってここまで濃くはないだろうー!という箇所がいくつも。良書。あのときの甲子園になにかしらの感動を覚えた方はぜひー。
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琉球ボーイズ―米軍統治下の沖縄に大リーガーを本気にさせた男たちがいた 市田 実
この本の著者・市田実氏は、最近ビッグコミックオリジナル誌で「ハイサイ甲子園」という、1958年(昭和33年)、沖縄県勢甲子園初出場を果たした首里高校野球部をモデルとした連載漫画の原作も手がけています。こちらもどうぞー。高田靖彦さんの眉毛のふっとい絵柄が、話によくあっています。
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