超恋愛小説 水村美苗【本格小説】


本格小説(上巻) 本格小説(下巻)
軽井沢の別荘を舞台にした、昭和三十年代に軽井沢に別荘をもてるような富裕な家族とそこに関わった人たちの物語。戦後から昭和復興という歴史の大きなうねりに巻き込まれちゃったりしながらも、やっぱり人の営みといったら、恋よね愛よねぇ、という超恋愛小説にして、本格小説!
著者の水村美苗さんは、12歳の頃に渡米しており、日本語に飢えた状態の中で青春時代をすごしています。彼女の『日本語が亡びるとき』は話題にもなりました。
日本は、学問を行なうことができるレベルにある「国語」を近代の初めに確立することができた数少ない非西洋国です。そして、その国語でもって優れた小説 が書かれた。国語のレベルを維持することがどんなに重要な課題か。それは今回の評論でもっとも伝えたかったことの1つです。
(中略)
日本人を日本人たらしめるのは国家でも血でもなく、日本語なんです。その日本語でもって最高の思考ができるよう護るべきです。

※過去の新聞サイトからのインタビュー記事の引用です。
そんな彼女が、彼女が暮らしていなかった時代の日本を舞台にして紡ぐ物語。そこで繰り出される日本語の美しさ・滑らかさといったら! 手触りのよいシルクにつつまれているみたいな、懐かしくも凛々しい気持ちのよい言葉の数々。あわあわとした軽っちい言葉じゃなくて、しっかりとした地に足のついた日本語! そんな中でも、女性ならではの小気味良い視点がぐさぐさっと胸に残っていくのです。
「民主主義は大変結構よ。わたしくはそんなものには反対しませんよ。でもね、『女中』っていう言葉をね、昔のことを話してたって使えないって、それはいったいどういうことなんですか?」
ただでさえきつい眼が光を増した。
「昔はああいう人たちはどのお宅にもいたのに、『女中』って言葉を使えなかったら、ああいう人たちのことをどうやって話すの? あんな人たちはいなかったってことにしたいの?」
日本ていう国はね、そういうことにしたいのよ、言葉を使わなかったら事実が消えると思ってるの、そして女中がいたなんて事実は消えた方がいいと思ってるの、と冬絵が応えた。
「バカバカしい」
春絵が吐き捨てるように返すと、納まらない気持ちを剥き出しにした声で続けた。

太字は私が。マダムは鋭いなー。
ともかく、めくるめいたのですよ! 前にも書いたけど、この物語の狂言回しが私と同年代で、独白する女性が私の母の3年先の生まれです。母親のもうひとつの人生がここにあったかもしれない、なんて思うとさらにぐっときます。読み終わったあと、この物語は自分がじかに聞かされたのではないかと錯覚しちゃったくらい、生々しかったのよ、人の営みってのが。めくるめく体験をしようにもどこから手をつけたらいいかわからない方、ぜひこの『本格』小説で、体験なさってみてー。
ところで、昨日、地下鉄の中で「漫画アクション」を読んでいる男性をちらっと見ましたら、あなたっ、川上弘美の「センセイの鞄」を谷口ジローさんが描かれているではありませんか! うーん、あまりに的確な、的確すぎる采配!
「センセイの鞄」のあわあわとした感じ、1つのエピソードを多数の漫画家さんが描くという企画があったら絶対読みたい。元気であれば岡崎京子さん、高野文子さん、寺田克也さん(4ページくらいで)、こうの史代さんなどでぜひ漫画にしてもらいたい。広兼さんは勘弁してー、生々しくなりすぎだからーーーーーー。
「センセイの鞄」の主人公と、「本格小説」の語り手は、多分、似たようなルックスなんじゃないかなーと思いつつ・・・。

2 COMMENTS

ナカムラ

高野文子、岡崎京子異議なし、です。復活なった岡田史子さんとか描かないかなあ・・・。さべあのまとか好きでしたけど。

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