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“合田雄一郎”シリーズ最新刊
2002年クリスマス前夜。東京郊外で発生した「医師一家殺人事件」。衝動のままATMを破壊し、通りすがりのコンビニを襲い、目についた住宅に侵入、一家殺害という凶行におよんだ犯人たち。彼らはいったいどういう人間か?何のために一家を殺害したのか?ひとつの事件をめぐり、幾層にも重なっていく事実。都市の外れに広がる<荒野>を前に、合田刑事は立ちすくむ― 人間存在の根源を問う、高村文学の金字塔!
(上巻)「この身もふたもない世界は、何ものかがあるという以上の理解を拒絶して、とにかく在る。俺たちはその一部だ」
犯行までの数日間を被害者の視点、犯人の視点から描く第一章『事件』、容疑者確保までの緊迫の2ヶ月間を捜査側から描く第二章『警察』を収録。
(下巻)「子どもを二人も殺した私ですが、生きよ、生きよという声が聞こえるのです」二転三転する供述に翻弄される捜査陣。容疑者は犯行を認め、事件は容易に「解決」へ向かうと思われたが・・・・・・。合田刑事の葛藤を描く圧巻の最終章『個々の生、または死』収録。
あらすじは紀伊國屋書店のサイトから。
GW前半の三日間で一気に読んだ。
犯人たちの、被害者たちの、積み重なっていく日常が!
先日、「太陽を曳く馬」を読み終わったあと、私の頭のなかには「生きよ生きよ、粛々と生きよ」というメッセージがずしりと残ったのだけれども、今回、その字面を下巻の中に見つけ、どきりとした。
高村薫は、あいまいな時代ではなく、くっきりとした日付で物語を進めていくことが多いけれど、2002年12月に起きた物語の中のその医師一家殺人事件から物語の決着を見る2005年冬までの、日本や世界が体験してきた数々の事件・事故・自然災害のそれぞれもちらりと描かれて、この殺人事件が実際に自分たちの生きる世界の中で起きているような気持ちにされる。この殺人事件の犯人の戸田も井上も、殺された医師一家のひとりひとりも、日本のどこかで、生きている。ひとりの「戸田」が物語の「戸田」になることもあれば、「戸田」にならずに一生を終えることもあるだろう、そういった生々しさもあいまって。犯人のひとり「井上」は、2002年、横浜の長者町のパチンコ屋で働いていた、仕事が終われば16号線をGT-Rに乗り行ったりきたりする。馬堀海岸の海に飛び込むような角度のあるカーブがお気に入りで、町田や相模原の国道沿いのファミリーレストランで目玉焼きの乗ったハンバーグを食べ、またスロットをうちに行く・・・。1990年台に横浜のこのあたりに住んでいたからかもしれないけど、2002年の「井上」の姿が私には見えるんじゃよー、目に浮かぶんじゃよー。
最後の十数ページは「あぁ、そろそろ、高村薫ワールドが終わっちゃうなー」と寂しく思いながらページをめくりました。そして物語の中で触れられていたいくつかの映画や文学を近いうちに読んでおかなければと思うのです。
働け働け働け、生きよ生きよ粛々と生きよ!