父の日てふ物語あり棕櫚の花／ディーパンの闘い　（原題 DHEEPAN）

今週のギンレイホールは「父の日特集」。今日はディーパンの闘いを見てきました。この映画の評で「これは現代のタクシー・ドライバーだ！」といってる人がちらほらいたけど、それは主人公が元兵士だってことに加えて最後のシーンの印象だけでしょ？　これはスリランカのグラン・トリノでしょ！？　この映画評で「タクシー・ドライバー」って言ってたひとたちは、今後参考にする映画評論家リストから外すことにしただよ！

あらすじはギンレイホールのサイトから。
DHEEPAN
2015年　フランス映画　フランス語・タミル語　115分　DCP
★第68回カンヌ国際映画祭 パルムドール〈最高賞〉受賞

内戦下のスリランカで妻と娘を殺された元兵士ディーパンは移住許可を取るため赤の他人と偽装家族を装い３人でパリに渡る。辛うじて難民審査を通り抜けパリ郊外の集合団地で暮らし始めるが…　人種・宗教・移民問題を背景に、暴力を捨てた男が新たな人生のために再び闘いに挑むヒューマンドラマ！

映画というものは、主人公たちが苦労を乗り越えやっと手にしたささやかな幸せの絶頂の瞬間に、恐ろしく悲しい事件が起きるものだと理解しておりますが、理解しながら見ているのですが、あぁもうほんとうにほんとうになんてことなんてこと！　

物語のラストシーンが「実は、主人公たちが今際の際にみた夢だった」ってことだったらどうしましょう、ほんとうにどうしましょう、とハラハラしながらエンドロールが終わるのを待ちました。よかった、あのラストシーンが夢じゃなくてほんとうによかった。

普通の暮らしを手に入れるために命がけで海を渡る一家が世界のあちこちにいるのだということを、こういう移民を受け入れ続けているフランスという國があるということを、ひしひしと感じながら。公式サイトの作品背景解説がずしんとくるのでみなさまもぜひ。

しかしですね、主人公を演じたアントニーターサン・ジェスターサンは元タミル・イーラム解放軍の少年兵士、子役のカラウタヤニ・ビナシタンビは今回が映画デビュー、妻役のカレアスワリ・スリニバサンはインドの舞台俳優。すばらしいキャスティングですな。主人公の人、俳優さんじゃないんですよ、文筆家なんですよ！　池澤夏樹が俳優やってるようなものですよ！　

そしてフランス人チンピラ役をやっていたヴァンサン・ロティエが、フランス人らしいそれはそれはフランス人らしい端正なお顔立ちで少々ふるふるしました。この方は「ムード・インディゴ」に出てたらしい、あ、もしかしてあの人かなと思い当たる人はいます。ですが、今回のチンピラ役のがすごいよかったし印象的で、役者としても味があったし陰影もあり、なによりあのクズっぷりがよく似合ってたよ！　色男なのに普通の人々が知らない凄まじい世界の片鱗をちらつかせるシーンとか（あの首をふるふるするところね）。現実社会でもこういう人種と関わっちゃならねぇとスクリーンから伝わってきましたもの。

しかしよかった、ほんとうに、あのラストシーンが幻でなくてよかった。