冬ざるるティファニーの前で朝食を/トルーマン・カポーティ 翻訳:村上春樹「ティファニーで朝食を」

ティファニーで朝食を (字幕版)

暇を持て余して持て余して仕方ないとき、隣にいた人に「ひとまずこれを読んでたら?」とトルーマン・カポーティを差し出されたら食わず嫌いすることなく読むことができるくらいの好きさ加減のカポーティ先生。先日SEX AND THE CITY最終話を見おわったあと、そういえば同じニューヨークが舞台の女の子が主人公の「ティファニーで朝食を」ってちゃんと読んだことないことに気が付き、読んでみた。わたくしが住んでいるところは新潮社のお膝元神楽坂が最寄り駅のひとつ、てんで新潮・村上春樹訳版を入手して読んでみましたの。やれやれ。

ジバンシィのブラックドレスに身を包んだオードリー・ヘップバーンのスタイリッシュな映画というイメージが強い本作品ですが、読んでみたらだいぶ印象が違いました。「あれーこういう話なの?」と映画「ティファニーで朝食を」を15分ほど見てみたらお話の筋は確かにあってるけど原作通りというわけでもない箇所が随所にあったので、また本に戻り、とにかく物語を読み進めることにした。

・長い間この物語を、「プリティ・ウーマン」のような明るく陽気でラブラブした一発逆転ガールの話かと思ってけど、全然違った。

・物語はいなくなってしまった俺らのアイドル・ホリーを懐かしむところから始まる。映画ではこの描写はなし。

・舞台は1943年のニューヨーク、「いまやってる戦争」は「第二次世界大戦」。

・マンションの上のフロアに住んでいるカメラマンの日系二世のユニオシさん(クニヨシの音?)、当時、いじめられたりしなかったかしら。戦中の彼が心配! 

・それにしても映画の中の日本人の描き方がひどい。こういうのが1960年代のハリウッドでは普通に許されたことだったのねと思いつつも、過剰な日本趣味の内装の再現には「よく研究されました」とも。小柄なアメリカ人俳優ミッキー・ルーニーが演じた、出っ歯でハゲでチビでドジで常にドタバタしてる日本人像を払拭するのにどれだけ時間がかかったのか、いや、いまもこのイメージなのかも、と思うと、つくづくパブリック・イメージ・リミテッド。

・主人公は、映画のようなザ・アメリカン偉丈夫といったタイプのイケメンではなさそう。イケメンかもしれないけど、堂々たるアメリカンイケメンではなく、自信のない、もう少し子供らしさがどこかに残る地方出身の作家志望の青年。また彼が住んでいる部屋は、大変なボロ部屋として描かれていたけど、映画の中は豪奢で裕福なシングルマンが住んでいるお部屋でした。これには、カポーティ先生がこの描写に怒って掌の中のお酒のグラスを割ったりしたのではないかと心配になりました。

・ホリーも黒髪のキリッとした美人じゃなく、どちらかというとちょっと崩れたところのある、でも表面上は「きちんとしてます」ガールを取り繕っていた女の子のように感じる。娼婦兼ハリウッド女優の卵というところだけど、いまでいう「プロ彼女」に近いものかもしれない。もっとシンプルな造形の野心満々の金髪美女が演じてもよかったのかも、マリリン・モンローとか田舎からでてきたばかりのマドンナとか。でもオードリー・ヘップバーンが演じたから名作として残っているのよね。

などと思いながらWikipediaを見に行ったらカポーティは、マリリン・モンローを主役にすえることを条件に、映画化を了承した。ところが、出演オファーを受けたモンローは、娼婦役を演じることが女優としてのキャリアにマイナスになると考え、出演を断った。(中略)こうして、モンローとはまったく個性の異なるヘプバーンが主演を務めることになった[3]。モンローのイメージに合わせて書かれていた脚本は、急きょヘプバーンの魅力が生かされるように書き直された。という記述がある。やはり。マリリン・モンロー版が見たかったなぁ、「カポーティ先生が本当に見たかったティファニーで朝食を」が見たかった! いずれそういう作品が出てくるかもしれませんね。

・明るくて陽気でスタイリッシュだけど、そこはほれ、カポーティ先生のやることですので、ちょっとしたクライム・サスペンスの要素も。こういう演出がハリウッド映画にもあっていたのでしょう。

Wikipediaの概要を読んでみたら、「え、え、え、そういう結末でしたっけ?」というざっくりしたあらすじが書かれています。これは映画のあらすじなのか、いや、下に「映画あらすじ」の項目があるし、原作のあらすじとしてこのまま野放しにしていいの? 英米文学の先生、怒ったりしてないかな。

・ソフトカバーのこの本は、鮮やかなティファニーブルーの表紙で、ちょっと素敵な読み心地でしたよ。やれやれ。

映画は猫映画です。物語も猫小説です。あの結末を迎えるためにすべての要素がみごとに噛み合った良い中編小説でした。

 

ティファニーで朝食を (新潮文庫)

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