お正月に読んだ本/内館牧子「終わった人」・デヴィ夫人回想録・井上井月・コンビニ人間・江戸の売春

終わった人 内館牧子

終わった人 (講談社文庫)

仕事人間として成仏しきれなかった主人公が、定年退職後あれやこれやするお話。盛岡の進学校から東京法学部へ、入社したメガバンク一筋で頑張ってきたのに出世コースから外れ系列の小さい会社の社長で「終わった」ひとのお話。メガバンクで働きおおせば、ほほぅ預貯金が一億三千万残り、企業年金と厚生年金で年間500万、と。内館先生、生々しい数字をお出しになる☆ 東北地方の方言がよく生かされたお話でした。これからの人生の予習に読んでおくといいですね、いやーん。

小学の主席を我と争ひし 友のいとなむ木賃宿かな 石川啄木

 

漂泊の俳人 井上井月記 井上三好

漂泊の俳人 井上井月記

明治時代に現在の長野県駒ヶ根市・伊那市のあたりを俳人として、俳諧の先生として放浪していた俳人・井上井月の一生をまとめたもの。乞食井月、虱井月と嘲笑われながらも、俳句好きの旦那衆たちからは愛されていた。長岡藩脱藩の人らしいけれども真偽は不明。最後は野垂れ死にし、その死の間際に詠んだ辞世の句がいまひとつだったことから、「やっぱりただの乞食だったんじゃないの?」と急に評価が下がり、そのまま記憶の彼方に消えてしまった漂白の人。

しかし、そのなかの旦那衆のひとりの息子が東京に進学し開業医となり、たまたま俳句に明るい芥川龍之介の主治医となり、田舎でかき集めてきた井月の句を龍之介に見せたりしているうちに、井上井月という漂白の俳人を再発掘するきっかけに。後の時代には、それを読んだ種田山頭火に「私の師は彼だったのだ!」と彼の漂白魂に火をつけてしまい、芭蕉以降の漂白俳人のルーツになります。種田山頭火の人生、これで狂っちゃったんだと思います。

この本をまとめた方は富山出身の中井三好さんという方で、この人の親戚が北越戊辰戦争に参戦したことがあり、それもあって「やはり井上井月は長岡藩の人だったのでは」と確信を深めるエピソードがあります。おぉ、歴史がつながってる。激動の明治維新を生き抜きながらも、のんびりしていた南信濃の空気を楽しみながら読みました。

 

井上井月と伊那路をあるく: 漂泊の俳人ほかいびとの世界

井上井月と伊那路をあるく: 漂泊の俳人ほかいびとの世界

で、この井上井月の映画が2012年に制作されました。「ほかいびと」というタイトルで、漂白の俳人を演じたのは田中泯です。ナレーションは樹木希林。ポレポレ東中野でうっかりかかったりしたそうですが、ああん、見逃してます。その映画の制作の様子をまとめた本で、井月の一生とともに彼の有名な句、撮影のロケ日記や田中泯インタビューなどがまとめられています。田中泯の写真もたくさんでお買い得。

有りし世の憂さをも語れ鉢叩き 井上井月

 

コンビニ人間 村田沙耶香

コンビニ人間 (文春文庫)

村田沙耶香さんの「コンビニ人間」。想像していたよりもはるかにコンビニ人間だった!! この人の書く他の作品が読んでみたいなと強く思いました。

 

江戸の売春 永井義男

江戸の売春

江戸時代の公娼・私娼のあれこれをまとめた話。紅白歌合戦で椎名林檎が夜鷹の格好で出てきたけど、なんであのひとああいう方面に自分を持っていきたがるのかしらね。
一晩で五人も客を取らされる「廻し」という言葉を初めて知った。そんなん体が持たないよね。抗生物質も避妊具もない時代だったけど、全体の平均寿命が短かったから、遊女や客が梅毒で死んでも誰もあまり気にしなかったとか、ええええーそんな身も蓋もない。
八畳間に四組詰め込み仕切りは枕屏風だけの「割り床」というシステムがあることを知り驚いた。でもこれ、先の大戦後、庶民がどうやって生き抜いてきたかを描いた「あれよ星屑」という漫画で目にしたことがある。戦後すぐ、駐留したアメリカ兵を相手にした場面だった。切ない。

 

デヴィ・スカルノ回想記 ラトナ サリ デヴィ・スカルノ

デヴィ・スカルノ回想記 栄光、無念、悔恨

麻布の笄町に生まれた特別かわいい女の子は、なんやかんやいろいろあってインドネシアの大統領夫人になりました。そのなんやかんやがすごい。中学卒業して千代田生命に入り、夜は三田高校の夜間部、合間にお芝居やモデルの勉強をしていたが、赤坂のクラブ「コパカバーナ」で働きはじめ、たった2年で千代田生命15年分の給料に相当する貯金を築き上げ、そのとき彼女は17歳、さてひと商売しようかな、とアレしたりこれしたりしてる間に・・・あぁすごい。
スカルノ大統領は政変で失脚し、インドネシアに居場所がなくなったデヴィ夫人はヨーロッパに渡り、東洋の真珠として社交界に君臨していく。社交界ってこういうことをさすのかとひれ伏したくなる日々。写真に一緒に写ってるひとびとがすごい。ほんとうのセレブリティってこういうのをいうのか。普通の飛行機のことをわざわざ「コマーシャルフライト」と呼ぶの、普段は政府専用機かチャーター機かプライベートジェットしか乗らないから、わざわざ「コマーシャルフライト」というの。そんな言葉があることすら私は知らなかったよ。ひえええ。そういうご本でした。テレビでおどけている昭和15年生まれの謎のおばさんだと思ってましたが、なかなか大変な仕事をなさってきたと思う。柿の木坂の児玉誉士夫の話なんかもでてくるので、今度はその辺を別の角度から読めるご本を探したい。

 

日本で一番悪い奴ら

日本で一番悪い奴ら

おまけ。北海道県警で起きた実話を元にしたフィクション。でもほとんど事実に基づいているんだと思う。綾野剛の肌が若すぎて、落ちぶれた中年となったときの顔づくりが追いついてなくてもったいない。主役は青木崇高でもいいような気がするんだけど、彼はやはり名脇役止まりなんじゃろうか。北海道の俳優さんたちがたくさんでていてほっこりしましたよ、TEAM NACSの音尾さんも出ていた。音尾さんのお父さんは北海道警察の人で、この映画のモチーフとなった「稲葉事件」の稲葉と同僚だったというのですから、それもご縁ですわね。

こういう映画でないとエッチなシーンを思い切り撮れないのが今の日本映画の現状なのかー、いやしかし張り切ってエッチなシーン撮りすぎなんじゃないかちら、どうかちら。「探偵はBARにいる」でもやけに張り切ったエッチなシーンがありましたが、北海道を舞台にするとつい頑張っちゃうのかちらどうかちら。いや、こういう国産クライム映画はみんなそうなのかも。あとは寺島しのぶが脱ぎだす文芸作品か。

以上、総括2019年のお正月、でした!

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