前回読んだ田中慎弥の『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』こと「美しい国への旅」を読んだとき、「田中慎弥ってディストピア大好きっ子な近未来SFの人だったの? それともそういう人になったの? 集英社のすばるブランドだからこういうことになったの?」と驚いたわたくし、田中慎弥の初期の本を取り寄せて読んでみました、それが「犬と鴉」。
講談社発行、血痕を表しているのでしょうか、赤い玉が少し凹んでいて、その手触りが物語の不吉さを予感させてくれます。そして読んでみたの、収録順に。
犬と鴉
戦争を通じて描かれる
歪んだ家族の忌まわしき絆
鬼才・田中慎弥が到達した
現代文学の真髄!
初出「群像」2009年7月号
あぁーこれもどちらかというとマッド・マックス怒りのデス・ロード! 種まきババァが教えるのは得難い味の果実の名前! されど田中さん、やはり文字や言葉の人と改めて感じさせてくれる中編小説。第31回野間文芸新人賞候補。
血脈
家を継がず一冊の本に拘泥するのはなぜか
父と息子が抱く譲れない思い
初出「群像」2006年5月号
父親を早く亡くされたという作家本人の自伝的小説ではないでしょうか。よーしよしよし、芥川賞受賞作の「共喰い」に近づいてきました。短編小説。
聖書の煙草
定職を持たず母と二人で暮らす三十男
古びた聖書が無為な日々を狂わせる
初出「群像」2008年2月号
これは間違いなく自伝。ニヤニヤ・・というか所々でゲラゲラ笑いながら読んだ。御本人はインターネットをまったくしないそうですが、定職を持たない引きこもりの半アル中の主人公が働いて疲れて帰ってきた母親へかける言葉の数々が、インターネットでみただめな引きこもりの皆さんのテンプレートのようなセリフでまたニヤついた。そんなダメ男が主人公ではありますが、田中慎弥のこの『檸檬』は、意外と爽やかなエンディングでした。おすすめ。