青年はバッタを倒しにアフリカへ/前野ウルド浩太郎『バッタを倒しにアフリカへ』/西村しのぶ『下山手ドレス別室 3』

バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)

iPhoneで世界時計をいじっていると「ヌアクショット」という地名が出てくる。一体どこなんだろう、まったく想像もつかない。調べれば「モーリタニア・イスラム共和国」の首都という。アフリカを手斧のようなかたちとしてみれば、その斧の刃の下側先端、大西洋に面した地点がヌアクショット(いまgoogle map で調べたら、google map が地球儀をくるくる回したときのような動きをするものに変化していてちょっと感動した)。

この新書は、そのモーリタニアのサハラ砂漠に、サバクトビバッタを倒しに行った日本人青年の物語である。

彼は子供の頃からバッタが好きで、「できることならバッタに食われたい!緑色の服を身にまとって、バッタにむしゃむしゃと食われてしまいたい!」と願うくらいの重度のバッタ好き。辺見和雄と姉畑支遁先生と合体させたような変態なのかと一瞬引いてしまいましたが、そのあたりから彼の文才が炸裂しており、グッと引き込まれていきます。

アフリカでのバッタ研究の様子や、砂漠の食事や文化の話も面白かったのですが、物語の後半を占める彼の就職活動(?)のくだりが圧巻だった。モーリタニアへの派遣期間のリミットが近づき、このままでは就職もできず無職になることを危惧した彼は、一時帰国の際に就活と実績作りを兼ねてニコニコ学会に出たりするのです。さらには京大の白眉プロジェクト(優秀な若手研究者を最長五年の年俸制特定教員として採用するというもの)に合格し、心置きなくモーリタニアの地でバッタ研究を続けていけることが決まり、最後には念願のバッタに襲われるシーンで物語は終わるのです。彼の夢はすべてかなっていくのです。

いやーわーちょっと待ってー、夢ってこうやって叶えていくものなの? わたくし、こういう人生の切り開き方があるということを考えたこともありませんでした。まったく考えたこともありませんでした。 まったく知らなかった。好きなものを追い、学究の民となるという生き方もあったんだ。いま好きなものって、うちの猫とレンジーくらいだもんなぁ、うん、好きなものってそういうものじゃないよね? 

これは早く甥っ子に読ませなくては。甥っ子が「人生の夏休みのために大学に行きたい」などと寝ぼけたことをいうので、「バカッ! 大学の四年間しか遊べない人生を歩むんじゃなくて、一生遊べる人生を過ごすために大学に行くのよっ」とエア平手打ちをしたりしました。わたしは大学に行ってないからその辺のことはよくわかりませんが、一日も早くこの本を、進学を控えた甥っ子に読ませなくては!!

 

西村しのぶさんの「砂とアイリス」も「学究の民となって人生を切り開いている女性」を描いたものなんでしょうけど、いかんせんベースが不倫ものなので読者レビューがさんざんなことに。でもでもでもっ、これらのレビューを書き込んだひとたちも若い頃は、西村しのぶさんが描くやんちゃガールが好きだったんじゃないの? いまになって「不倫なんて許さないざます」って言うなよー。もともとそういう作風の人じゃないですかー!

砂とアイリス 4 (愛蔵版コミックス)

 

昨日は「下山手ドレス別室」の最新刊を買った。ニヤニヤしながら読んだ。関西マダムはアラフィフをすぎると鉢物園芸にはまっていくのか、メモメモ。表紙のコーティングが素敵でしたよ。しかし遅筆! 2019年秋に発売された単行本なのに、巻頭第一話が2012年のものでずっこけた。

下山手ドレス別室 3 (フィールコミックス)

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