神保町の三省堂に行った。
技術書を一冊手に取り、エスカレーターで一階の総合レジに行く途中で古書コーナーを見つけた。そこでこの本を見つけて買った。読んだ。この人の文才、ほんとうに憧れる。
若い頃の西村賢太氏の私小説。私小説というか実話。『春は青いバスに乗って』という短編は、スピッツのタイトルみたいだけど、その青いバスは警察が被疑者たちを運ぶあの青いバスのことで、ほんと、西村さんなにやってますのん、といち読者が心配してしまうくらい。
1967年生まれの氏、そんな出鱈目な暮らしをしていても、この物語で描かれているのはバブルの前後か、いまみたいになにをするにもどこぞの業者を介さねばならぬような金のかかるわけでもなく、日雇い港湾労働でもなんとか食いつなげられた景気のよい時代。おもえばあの頃もてはやされた「フリーター」なる職業の一群には、こういう人も少なからずいたのだろうな、と。
とにかくタイトルが素晴らしい。こんなタイトルをつけられる青春というのもなかなかない。まったく知らない他人の人生を体験できるという点では、なかなか稀有な私小説。簡潔でキビキビした、そしてどことなく品さえ感じられる文章なのに、やっていることといえば犯罪すれすれのことだったり、買春だったり、犯罪だったりする。ダメじゃん、西村さん、ダメじゃん!!
その彼が飯田橋に住んでいた頃の話があった。
ところでその銭湯だが、その時私は厚生年金病院の裏底辺のアパートに住み、そこから最も近い神楽坂の中腹に近い、大久保通り沿いの湯屋を使っていた。
あ、あそこか! あの老舗の!! わたしも一時期通うのにハマってたわ、ジェットバス多めなの。
昭和60年の神楽坂の様子がうっかり知ることができました。物語は著者が「第三玉の湯」からいまはなき「神楽坂浴場」に鞍替えしたときのお話でした。なんでしょう、この古地図探訪みたいな展開!
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