連翹や清朝末期のブーフーウー/パール・バック「大地」

今年の元日に第一巻を読み終えた。読み終えたあと、物語が四巻まで続くことを知り、ちょこちょこ読みすすめ、昨日で読み終えた。読書椅子兼寝椅子で本を読んでいると猫がお腹の上にのってきて、それはそれは長く長く体を伸ばしてくつろぐおまけつきざます、なんて素敵な読書の時間なんでしょう。

パール・バックの『大地』とは

『大地』 The Good Earth (1931) 新潮版1
『息子たち』 Sons (1932) 新潮版2~3
『分裂せる家』 A House Divided (1935) 新潮版3~4

安徽省で暮らす貧農の王龍は、富裕な家で働く奴隷の阿蘭を妻に娶る。阿蘭は美しくはなく寡黙だが非常に勤勉で、王龍はわずかずつだが富を蓄えられるようになる。阿蘭がかつて働いていた地主の黄家が没落していくのを見て、すかさず黄家の土地を少しずつ買い求め拡張していく王龍。数年後に黄家は完全に没落し、その屋敷に移り住む王龍。地域の人間の誰もが認める富豪となった王龍は、やがて3人の息子に恵まれる。長男はそのまま地主として王龍のあとを継ぎ、次男はその土地からあがる収益をもとに商人に、南へ勉強に生かされた三男は軍人として帰ってくる。時代が変わり、軍人の息子はやがてアメリカへ留学するようになる。

つまり、清朝末期正直不動産物語というか清朝版カムカムエブリバディなのです。

連続テレビ小説 カムカムエヴリバディ Part2 NHKドラマ・ガイド

さて、この物語の時代背景は、日清戦争、義和団の乱、孫文の辛亥革命、清朝の滅亡、中国国民党の成立、中国共産党の創立、蒋介石の北伐、南京事件、共産党と国民党との提携分裂、古い王朝の滅亡と新しい中国の台頭、激動というには言葉が足らないほどの激動の時代です。物語の中ではこれらの単語は一切出てきませんし、上海だのアメリカだの具体的な地名も書かれません、若者たちは革命の熱に浮かされ、老人たちは古い時代に取り残されていく、そんな様子から読者は自分が記憶している中国史と中国地図と照らし合わせて読んでいきます。裕福な家庭に生まれても息子たちに自由な人生など与えられないし、女達には人生すら与えられていない、そんな時代の物語です。

土地に勝手に軍閥(ここでは王龍の三男)とやらがやってきて「今日から○○も税金としてカウントするからね、シクヨロ★」と居座るのです、理不尽!
そしてそのあがりでかわいい息子をアメリカに留学させたりするわけです、格差! 
さらに三男の娘は、近代的に整備された都市で毎日面白おかしく愉快に暮らし、毎週のように洋服を仕立て、毎晩のようにダンスパーティーに出かけるのです、太宰治!? 

パール・バックさんは1892年(明治25年)にお生まれ、1973年(昭和48年)にお亡くなりになったのですが、ここまでの中国の空気感をアメリカ人女性がよく描ききったものです。パールさんは宣教師の娘で、そのため子ども時代を中国で過ごしていました。ですので、突然「何マイルも離れた土地に」とか「何ヤードもの土地が」とアメリカ単位が登場してきて微笑ましくなります。
物語は1930年頃から始まっていますが、えぇえぇ100年前、たった100年前のお話なんですよ、青銅器をつくるために森という森を伐採しきった時代から4000年たった黄色い大地の物語なのですよ。100年という時間の長さは、その国の人のメンタリティをどのくらい変えるものかしらと注意深く読みすすめました、まぁ日本も一緒なんですけどね、太宰治みたいな子女は洋の東西を問わずいるものだということもわかりましたし。

コロナの巣篭もり時代に、お時間ありましたらみなさまもぜひ。

大地(一) (新潮文庫)

大地(二) (新潮文庫)

大地(三) (新潮文庫)

大地(四) (新潮文庫)

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