小説「82年生まれ、キム・ジヨン」
2018年に発売されたこの本を、ようやく読んだ。オチがまるで星新一でゾッとした。
この時代に居合わせている人全員に「課題図書だよ」と配りまくりたい。
ある日突然、自分の母親や友人の人格が憑依したかのようなキム・ジヨン。誕生から学生時代、受験、就職、結婚、育児…彼女の人生を克明に振り返る中で、女性の人生に立ちはだかるものが浮かびあがる。女性が人生で出会う困難、差別を描き、絶大な共感から社会現象を巻き起こした話題作! 韓国で100万部突破! 異例の大ベストセラー小説、ついに邦訳刊行。
女性の人生に立ちはだかるものが浮かび上がり、それに直面するたびジヨンは口をつぐむ。その姿に、全世界の女性たちが共感する。しかも家父長制(というのかしら?)の重しが想像を超えていて、弟ばかりが驚くほど大事にされる。「男ってだけで同じ家族なのにこんなに大事にされるものなの?」と三姉妹で育った私は異様に感じた。いや待て待て、こういうの最近漫画で読んだぞ、と電子書籍のライブラリを開く。ゆざきさかおみさんの「作りたい女と食べたい女」の2巻だ。
「作りたい女と食べたい女」
「料理を介したほっこりシスターフッドの漫画かな、うふふ、美味しそう」と読み進めていくのですが、二人がどうしていまそこうやって生きているのか明かされるたびに、こんな辛いことが毎日に潜んでいるのかと身じろぎする。2巻では、「お正月は実家に帰らないんですか?」と作りたい女が食べたい女に質問するシーンがある。
「私の
実家
不出来なものや
小さいものは
母や私の分で
父や長男だけ
おかずが
多いとか
そういう
家だったんです」
そういう家があるの!? 私にはとても衝撃だった。いや確かに食卓で父は大事にされていましたが、だからといって体格比・労働量以上の気遣いを母がしているように見えなかった。お母さんがそういうことに無頓着だったのか、父が本当は物足りなく感じていたのかはいまとなってはわからない、またくわからない。
さて、そんなようなことが、キム・ジヨンの人生にずっと起きる(もちろんキム・ジヨン以外の実在する韓国の女性たち全員に同じことが起きる)。大学に入ったはいいが就職は男性から採用されていく、やっと採用されたはいいが出世の道は最初から閉ざされている。義母も義父も子供こどもとうるさいので辟易してると「産もうよ」と夫は気楽にいう、「そんな簡単にいわないで」と答えると「そんなに生活は変わらないさ」とにっこり夫が答える、えぇそうでしょうとも、あなたの生活はそんなに変わらないでしょうとも!!
そういうのがずーっと続いたあとに、星新一的オチがズドンとくるわけです。なんたること!
「この国にいたって仕方ない」って思う女性も多いことじゃろうて。そしてそれは日本でも同じ考えの女性がたくさんいることじゃろうて。
映画「82年生まれ、キム・ジヨン」
そんな星新一メソッドで打ちひしがれた後早速映画も見てみた。映画はトレンディドラマみたいに甘口に作ってあった。男性たちが見て気まずくなるシーンが、原作から7割くらい削られてます、安心して見てください。
なにしろ主人公のジヨンを「新感染 ファイナル・エクスプレス」「トガニ」のチョン・ユミが、ジヨンの夫を韓国の筒井道隆(私が勝手に名付けた)のコン・ユ、ジユが演じてる。その他の俳優さんたちは、等身大の韓国といった印象の方が多い。いやいやきみたちリップがずいぶんと紫色に振ってないかい、撮影時(2019年)の韓国の流行色だったのかい? また冬が寒い土地だからか、働く女性たちが着ているコートが、結構いいお素材、よいものをお召になってらっしゃる。ダウンを着るのは男、女はカシミアかウールという棲み分けもできている。また韓国の若い夫婦が取得する(賃貸?)平均的なマンションの様子なども見てとれて大変勉強になりました。
なお吹替版は、有賀由樹子と諏訪部順一さん。おっと、これは吹替版も見てみないと。
まぁみんな読んでよ、男性も女性も。ほんと読んで。