新田次郎渾身の時代小説「怒る富士」

怒る富士 上 新装版 (1) (文春文庫 に 1-36) 怒る富士 下 新装版 (3) (文春文庫 に 1-37)
新田 次郎の『怒る富士』。
宝永四年の富士山噴火を描いた物語。物語は駿東郡の名主の息子と水呑み百姓の娘の恋の場面からはじまる。物語の核は関東郡代の伊奈半左衛門忠順。噴火に伴う火山灰により、再起不能となった駿東郡とその地に残った農民たちを救うべく伊奈半左衛門は奮闘するが、幕府内の政争の前にその努力はむなしく消え、最後にはその政争にふりまわされるかたちでひとつの決心をする。以下解説文から抜書き。
富士山の噴火によって、当時の江戸の社会が政治システムと経済システムの双方で大きな変わり目にあることを人々は自覚させられた。米の石高中心の経済から、流通する貨幣経済の時代へ、武士から商人の時代へという変化が、津波のように押し寄せてきていた。力をなくしつつある者の嘆き、新しく力を持とうとしている者の胎動。それが、富士山の大爆発とぴったりと重なった。
「天なる自然」の噴火と、「地なる人間」の浮沈・変動とが、見事なまでに照応していたのだ。地上の人間も、上は将軍から、下は小作農まで、多くの階層が重層的に描かれている。読者は、まさに富士山の噴火口を真上から眺めているかのような壮大なパースペクティブで、江戸時代の巨大な政治・社会・経済の一大変動の全体像を把握できる。

浮ついたところのない、新田次郎渾身の時代小説です。ひとつ是非!

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