町田康「告白」

ヒグマ更新。ヒグマだって深夜のお笑い番組を見たりするのよ!
告白 (中公文庫 ま 35-2)
告白 (中公文庫 ま 35-2) 町田 康
風邪がどんどんひどくなるので今日は一日寝てました。横になりながら、読み終えてしまいました。町田康の告白。自由で天才、詩人で男前、なんちゅーおいさんでしょうか、この人は。
河内音頭のスタンダード「河内十人斬り」を題材にとられたこの長編小説、主人公の城戸熊太郎、その舎弟の谷弥五郎の二人が恋の恨み、金の恨みを晴らさんがために十人斬った挙句、金剛山に立て籠もって自決したという事件。概要を話せばたったそれだけですが、それにいたるまでの長い物語が描かれています。自由自在に入ってくる作家自身のツッコミがすごい。冒頭からしてすごい。
 安政四年、河内国(かわちのくに)石川郡赤阪村字水分(すいぶん)の百姓城戸(きど)平次の長男として出生した熊太郎は気弱で鈍(どん)くさい子供であったが長ずるにつれて手のつけられぬ乱暴者となり、明治二十年、三十歳を過ぎる頃には、飲酒、賭博、婦女に身を持ち崩す、完全な無頼(ぶらい)者と成り果てていた。
 父母の寵愛を一身に享(う)けて育ちながらなんでそんなことになってしまったのか。
 あかんではないか。 

最後の一行はまさにご自身のお声。こんな感じで鳥瞰的なツッコミがところどころに自由に入り、過去の小説では考えられないような時代を超えたツッコミも冴えわたり、そして紆余曲折、単行本にして830ページあまりを経て最後に「あかんかった」で話は終わる。
なんてこと、なんて人生!
物語の後半、主人公・熊太郎の嫁・縫があれこれそういうことになって「助けて、寅ちゃん」と叫ぶのだが、ここは、改行もされずにさらりと文章の中に挟みこまれている。しかしこの台詞の重みがあれこれそういう経緯を知っている読者にとってはかなりの衝撃で(私だけかもしれませんが)、あぁ、そして彼女も熊太郎にあれこれそうされてしまうのかという絶望を予感させる。その後に畳み掛けるようにして続く淡々とした八行が切なくかなしい。あたしゃここが一番切なかった。切なかったんじゃよ。
会話のほとんどは河内弁で、河内弁とは、ほれあれだ、今の西のお笑いの方々が使われる言葉で、この言葉の歌うようなリズムにすんなりのれるかのれないかでだいぶ読むスピードが違ってくることでしょう。私は頭の中で、主人公を中川敬さんに(町田康ご本人でもよかったのですが)置き換えて読みました。あぁすごく似合う。似合うわー。繰り出される言葉のおもしろさと音楽のようなリズムに酔ったような気分になりましたが、一度河内音頭の水分騒動を聞いてみたいものですじゃ。重ねて思うのは、時間を置いてもう一度読み返してみたいということですじゃ。
ところで、あたしゃヒグマニアを清水ミチコさんにお送りしたいですが、なにかツテはござらんでしょうか? あの人だったらわかってくれるよなー、となんとなく思っているのですが、どうでしょうかね?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください