澤地久枝「家計簿の中の昭和」

ブッシュと猫
「食べちゃうぞ」「いやーん」
澤地久枝「家計簿の中の昭和」。
まだ途中なんですけど。
この人は随分と男らしい文章を書くイメージがありますが、そこに至るまでの経緯を知ることができ大変納得。身寄りの無い両親が選んだ渡満という選択、満州での暮らし、特に詳しくは書いてないのですが「母は(澤地さんの)ただ一人の弟を戦死(自決)させている」という簡潔な文章に、戦争のなんたるかを考えさせられる。敗戦、そして引き揚げ、原宿に建てたバラック小屋での暮らし・・・それらの中で綴られてきた家計簿・・・
その彼女自身ともいえる昭和史についてはおいておきまして。
私は澤地さんの名前を「琉球布紀行」で知ったのですが、この本の中には着物にまつわる話もでてきます。
昭和43年、上司の方から黒川紬(黒川紬ってどんなの?)を贈ってもらい、その初めての着物にあわせ、諸々の小道具を澤地さんは買います。ここにその一部を抜粋。
肌襦袢  450円
裾よけ 1300円
長襦袢 8800円
帯締め 1000円
帯揚げ 1800円
帯芯   900円
半衿   500円
帯枕   400円
腰紐   350円
帯板   600円
帯の湯通し200円

今から40年以上も前ですが、この前私が買った半衿、500円でした(ワケアリ品でしたが)。きっと今の化繊のてろんてろんの半衿とは違う、塩瀬などのちゃんとしたものだと思うのですが、今買うと5000~10000円に相当するものでしょうか。
腰紐は今も一本500~1500円くらいだからあまり変わってないような気も。
帯枕は600~3000円、帯板は凝ったもので5000円、安いものだと1000円くらいだから、これも40年の物価上昇をあまり感じさせない・・・着物の小物ってあんまり値が変わってないの? 
他には、昭和45年、東京名古屋間の新幹線が4460円(現在は、10,700円で2.3倍)、東京札幌間飛行機往復25800円(現在は、JALの正規料金で67200円、AirDoで45000円弱)。
昭和45年の大卒平均初任給が40,691円平成20年のそれが200,680円ということを考えると、新幹線は昭和45年では約1/10、平成20年では1/20、飛行機は、昔はお給料の半月分、今では約1/4、ツアーなんかを使えばもっと安く札幌にはいけるよね。
てなことを考えると、公共交通機関の運賃って昔に比べて値ごろになってるんですなー。しかも新幹線なんか10分に一本出てるし、ダイヤの乱れもないし、京都は2時間ちょっとでいけるし、品川までタクシーでうちから1000円だし、あぁっ、なんたること!
サザエさんにも昭和40年代初頭(もしかしたら30年代後半かも)の漫画にこんなのがあります。
呉服屋で店員さんが裕福そうなご婦人に反物を勧めている。「こちら、人間国宝が一年かけて染め上げたもので、特別に値引きさせていただきまして38万円となっております」、それを脇で聞いていたサザエさんがドターンとぶっ倒れ、店員さんがなれた様子で「あちらのお客様にお水を」と若い店員さんに声をかけるというもの。
38万って、昭和45年の感覚だったら初任給約10か月分、これが昭和40年頃の作品なら当時の平均初任給が24000円、ってことは約16か月分! 今でいうと320万相当か。そりゃーサザエさんも倒れるわけだ。
でも、今の人が「320万」と聴いても、たぶん後ろにひっくり返るようなことはないと思う。もちろん、サザエさんが倒れたのは漫画的表現の一つだし、それがわずか12m弱の布の値段となれば平成の世でも倒れる人はいると思いますが。
うまく表現できないのですが、昔に比べて「320万」という数字はそれほど仰天するような金額でもないと思うのです。サザエさんの時代に比べて、自分の手元にある金額とは別として、今はお金があふれていて、お金というものの総量を想像するのに庶民もリッチな人も慣れている、今はそういう時代なんじゃないかと思います。
リーマンショック以来「兆」という単位が耳にバンバン入ってきて、負債5億だの12億だの聞いても「大したこと無いじゃん」って変なマヒを起こしてるのかもしれないけど。六本木ヒルズの総工費2700億、東京ミッドタウンの3700億も、すごい金額なのに、リーマンショックに比べればかすむなー、いや、すごいなー、3700億もどこにかかってるんだろー。
まーミッドタウンとかはさておきまして、私もお小遣い帳は学生時代からつけていますが、澤地さんのほど几帳面じゃないなぁ。お金の出入は生活の記録、帳簿付けのときに領収書一枚で鮮やかな記憶がよみがえることがあります。いつかこれらを振り返るようなときが私にもやってくるのでしょうか。
この本には「向田(邦子)さんとの旅日記」という章があります。41歳の澤地さんと42歳の向田邦子さんは、昭和46年、一ヶ月に及ぶ『南北アメリカ・カリブ諸国・ヨーロッパと、地球を袈裟掛けの大旅行』を敢行するのですが、航空運賃などの渡航費約60万、ホテル・食費・お土産代などはざっと50万、この時代に大卒初任給27.5か月分、110万の旅行をしたわけです。この時代の女性は思い切ったことをするもんです! 私にはその勇気はなかなかわかないなぁ・・だって今に換算したらざっくり540万の経験ですよ! サラリーマンの平均年収じゃないですか! ふわー・・・。
澤地久枝さんという精力的且つ硬派で男らしいドキュメンタリー作家をよく知るきっかけとなり、さらに、ものの値段のあれこれに「へぇぇー」といちいちうなづきたくなる、昭和の歴史年表と大学初任給一覧、さらに電卓と、付箋や鉛筆片手に読み進めたくなる本です。また、彼女の人生そのものも大変魅力的で、女一人の力でよく戦後のこの時代を生き抜いてきたなぁ、と。着物着て穏やかに笑っている写真しか見たことがなかったので、すごくおのろいた。格好いいなぁ。それに比べて私の人生のヘタレっぷりときたら・・・反省・・。
プーチンと楽器バラライカ
「これ、撃つときどうするの?」

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