「あそこ、雪男が出るらしいっすよ」という囁きを耳にしたばかりに、高野さんがある企業の露払い的レポートを作成するために単身ブータンに乗り込むっ! 観光客は一日200ドルの手数料を払ってガイドを伴って国内を見て回ることができるが、彼が謎の国家ブータンで目にしたものはっ!?
中国とインドに挟まれた小さな小さな国ブータン、国民総幸福量という数値をひっさげて独自路線を突き進む国。そして、いまそこで暮らす人々はどのように暮らしているのかがわかるご本でした。国民総幸福量(GNH政策)と言うのは仏教近代化国防環境などを総合的に判断し、3代目4代目の国王が個別に実施した政策の集大成。いまの国王は五代目で、四代目はまだ元気なんですけどささっと引退し、若く賢い息子に王位を譲ったのです(数年前来日して大フィーバーになったのはこの五代目の王様)。
高野さんがいう「未来国家」とは、電気もなく電話もなかった中国の山奥にいきなり携帯電話が入ってきたような、普通の国が踏むべき道程をすっ飛ばし、むしろ「ああはなっちゃいかん」と先回りして手にした国の姿がまるで未来の国家の姿のようだ、というものです。
私がブータンに感じるのは「私たちがそうなったかもしれない未来」なのである。
まず欧米の植民地になる。ならないまでも、経済的文化的な植民地と言えるほどの影響を受ける。独立を果たすと、政府は中央集権と富国強兵に出努め、マイノリティーや政府に反対するものを容赦なく弾圧する。自然の荒廃より今の景気を優先し、近代化に邁進する。大抵独裁政治で抑圧はひどいが暮らしは便利になる。やがて、中産階級が現れ、自由人権民主主義などが推進される。迷信や差別とともに神仏への信仰もすれていく。個人の中はさらに広がり、マイノリティーはよりきちんと理系されるとともに、共同体や家族が分解し、経済格差が開き、治安は悪くなる。政治が大衆化し、支配層のリーダーシップが失われる。そして環境が大事だ、伝統文化が大切だと言う頃には環境も伝統文化も失われている。
ブータンはそうならないように慎重に生きてきたし、これからもそうしていくことでしょう。そしてブータンの人がなぜその政策の中で穏やかに暮らしていられるのかも描かれている。迷ったら祈祷師が決めてくれるんだそうです。祈祷師が決めてくれたんですから、その選択を後悔する必要もないのです。悩んでもいいけど、それを後悔する時間がまるでないというこって、なんだか生きるのが楽だと思いません?
情報も選択肢もありあまっているが自分以外の誰も決めてくれないという、日本の自由で不幸なシステムのおかげだ。
それでもって自分で決めたら「自己責任だ」とか言われちゃうんだから、ほんとうに踏んだり蹴ったりですよぅ! そうはいっても、複雑怪奇な外交と資本主義が跋扈している21世紀の国の運営ですから、いろいろな問題も起きていると思いますが、他国に迷惑をかけないかたちで理想を掲げる国があるということは素晴らしいことと思います。これからもウォッチしていきます。