駆け走る真冬の洲崎パラダイス/日本文学100年の名作 百万円煎餅/新珠三千代・三橋達也「洲崎パラダイス 赤信号」

洲崎パラダイス 赤信号

 

ツイッターで「#今まで読んだ中で一番こわい短編小説」というハッシュタグが流行ったときがあり、その流れである女性漫画家さんが「三島由紀夫の百万円煎餅、作家の本性がよく出てる」とつぶやいていたのがしばらく印象に残っていた。本を探してみると、新潮社から出ている「日本文学100年の名作 第五集」にその作品が収録されており、取り寄せて読んでみた。ひぃぃ。解説を読むと「憂国と鏡写しである」とのことそちらも読まねば、ひぃぃぃ。他にはどんな作品があるのかなとラインナップを確認してみますと、このシリーズの第五集は1954-1963の間に発表されている作品が収録されており、こんな感じ。

梅崎春生「突堤にて」
芝木好子「洲崎パラダイス」
邱永漢「毛澤西」
吉田健一「マクナマス氏行状記」
吉行淳之介「寝台の舟」
星新一「おーい でてこーい」
有吉佐和子「江口の里」
山本周五郎「その木戸を通って」
三島由紀夫「百万円煎餅」
森茉莉「贅沢貧乏」
井上靖「補陀落渡海記」
河野多惠子「幼児狩り」
佐多稲子「水」
山川方夫「待っている女」
長谷川伸「山本孫三郎」
瀬戸内寂聴「霊柩車」

山本周五郎泣かすぜ、吉田茂の長男氏が小説家だなんて恥ずかしながら私知りませんでした、数あるショートショートの名作の中から星新一の「おーい でてこーい」を選んでいるあたり素晴らしい選だと思う。で、一番ぐぅぅぅと来たのが芝木好子の「洲崎パラダイス」。

売春防止法施行直前の東京。梅雨明け前。勝鬨橋の上で「これからどこへ行こうか」と、男と女は思案するも思い浮かばずにバスに乗る。洲崎パラダイスの入口で下りて、求人の張り紙のある飲み屋「千草」に入る・・・・

戦後から10年の1955年に発表され、翌1956年に映画化・公開。須崎は現在の江東区東陽町一丁目で、駅でいえば木場。この映画、すごい、歴史的遺産としての価値がすごい。昭和31年の勝鬨橋の周辺ってこんなんだったのー!? 映画の中では埃っぽい道を砂利を載せたトラックが何台も走っていく、東陽町を埋め立てていく砂利や土だ。これからこの街がどのような変貌を遂げるかをまったく知らない一杯飲み屋の女将さんや赤線の娼婦たちはいつも通りに暮らしている。あなたたちの暮らしはこれから大きく変わっていっちゃうんだよーだよーだよー。

冒頭、原作通りに勝鬨橋で佇んでいたふたりが通りがかりのバスに飛び乗って洲崎まで移動しちゃうんだけど、そのバスの中から捉えた風景。女を探して男がさまよい歩く秋葉原の活気に溢れた様子。私は東京っ子ではありませんので、余計に「この勝鬨橋が60年の年月を経てあぁなってこうなってああなるのか」と考えるだけでクラクラします。

あとですね、主人公の新珠三千代の美しさ。くたびれた着物を着て疲れ果てていた女が、パリッとした着物に着替えて長細いクラッチバッグを得意げに持って再び洲崎に現れるシーンの美しさとか、女の情感たっぷりに演じてるけど大げさじゃない感じなんかにもぐっときた。共演の芦川いづみの瑞々しさ、一杯飲み屋のおかみさんを演じている轟夕起子の演技力、三橋達也のだめ男っぷりも素晴らしい。

そして「へーこんな小説あるのか」「おもしろかった、へー映画になってたのか、アマゾンでレンタルできる」「見終わった、素晴らしかった!」までが数時間のうちに完結する時代に居合わせることができて本当に楽しい。ちなみにいまAmazonではアカデミー賞受賞作・ノミネート作をお手頃価格でレンタルしてますよー。ご興味あるかた是非-。

 

日本文学100年の名作 第5巻 1954-1963 百万円煎餅 (新潮文庫)

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