前回の八方尾根はハイキングといっていいコースだったのだけど、体力が許す限りもう少し山っぽいことやってみたいなーと思い始め、しかし、新聞などで「中高年の遭難」などという記事を読むと遭難者の年代が自分と近い。あれ、わたしってもう中高年じゃんということに気が付かされる。知識ゼロの我流で山登りすると周囲に迷惑かけそうなので、山と渓谷社の本で遭難の勉強をすることに。Kindle unlimited で。
遭難のしかた教えます
著者は丸山晴弘さん。1940年(昭和15年)長野市生まれ。数々の華々しい登山歴を持つ山に詳しい長野県山岳遭難防止対策協会講師の方。文体が古いけど、発行年月が古いので仕方ない。準備不足・体力不足・無計画で登山計画書も出さない無鉄砲な登山者をさんざん助けてきたのだと思います、しかも救助されたところで大したお礼も言えやしないようなひとたちを。文章の端々から「てめえら、山をなめるんじゃねえぞ!」という強い怒りが感じられます。お疲れさまでした!
山の天気にだまされるな
著者は山岳気象専門の気象予報士 猪熊隆之さん。一般の天気予報だけでは防げない気象リスクについて徹底的に解説。減災や危機管理にも通じる、遭難防止のための必読の書。「登山のガイドブックには、技術難易度は書かれているが天気の難易度については書かれていない」という。確かに。
子供の頃、学校行事の巡回映画で「聖職の碑」という映画を見せられました。大正二年、伊那の箕輪中学の木曽駒ヶ岳への集団登山(生徒25名、地元の青年会員9名、引率教師3名(校長、他2名))の際に起きた気象遭難事故を描いたもの。新田次郎原作、鶴田浩二主演。ウィキペディアにあらすじがほぼ全部載ってるので読んでください、いたいけな中学氏が凍死したり、真っ白に顔を塗られた鶴田浩二の死体が出てきたりと大変なトラウマ映画です。
この前後に公開された「八甲田山(新田次郎原作)」もそうなんだけど、どちらも正しい気象情報を得られなかった(得なかった?)ために起きた悲劇。あんな映画を小学生の頃に見せられたので、「山の天気は急変するもの」「山は恐ろしいところ」と体に刻み込まれてしまった。
その映画を見た年だったと思うのだけど、家族で「聖職の碑」の遭難現場になった木曽駒ヶ岳にロープウェイで登り、こんな小さい私でも登って来れる山でそんな遭難事故が?と驚いたことも覚えてます。昭和の大雑把な演出の映画だったけど、小さい頃にああいうのを見せておいたほうがいいねぇ、信じられないことをするひどい人間がたくさんでてくるし。
さて、この本では白馬岳で2012年のゴールデンウイークに起きた九州の医師6人のパーティーが遭難した事故を大きく扱っています。高齢者のグループで、6人全員が亡くなるという大惨事。その日は、北アルプスを中心に遭難事故が相次ぎ、その日の救助レポートはこちらから読めます。
このページに掲載されている白馬の登山コースガイドをチラチラ見ながら読み進めたが、「どうしてこの距離で遭難してしまうのか」と感じてしまう。それが山の天気の恐ろしさということか。
犠牲になった医師パーティーは森林帯を抜け、遮るものがなにもない稜線に出た途端に、突風とみぞれが降ってきたそうです。リュックから雨合羽を出したり手袋をはめたりと装備を整えている間に、風で装備が飛ばされ(怖い・・・)、拾いに行くこともできず、徐々に体力を奪われ、低体温症になり、みぞれ雨が降り注ぎ、翌朝発見したときには既に・・・・。恐ろしい。彼らは確かに体力と比べて無茶なコース取りをしたかもしれないけど、決して軽装備でなかったという。準備をしていても、体力が奪われていくうちに正常な判断ができなくなってしまったのか。
私はこの本を読むまで山で怖いのは雨や雪で急激に体温を奪われることだとばかり思っていたけど、装備を飛ばし破損させ、より体を冷やす機能をもつ「風」も怖いのね。「わーきもちいいー」とウキウキ歩く稜線も、冷静に考えたらその左右から風をまともに受けるんだから、天気がいいときでもしっかりしたウィンドブレーカーは必要だ。
山岳遭難の教訓
上の白馬遭難事件の記事を書かれた羽根田治さんが著者。山と渓谷の本誌で遭難レポートがたまに掲載されているけど、それをとりまとめたもの。この白馬の事故も収録されています。生還したけど一歩間違えば・・・という単独行の遭難事故もあり、知らない山の単独行は絶対にしないぞと心に誓いました。
・10月の三連休、急に冬になる山を襲う爆弾低気圧
・人為的に起きてしまったのかもしれない雪崩事故、提供側のリスクマネジメントの不足
・いつもの楽しいスキーツアーのつもりが、栂池ヒュッテからわずか300mのところで道迷いで凍死
・山小屋のすぐ近くで雪崩。テント泊の人々が犠牲に。テント内部で端に寝ていた人は死亡、枕元にはランプとナイフを。
・夏の奈良の山中単独行、幻覚に悩まされる。この幻覚の記述が読み応えがあり(?)、背中が粟立った。
この中で一番怖かったのは次のエピソード。
奥秩父の和名倉山を目指した女性が分岐ポイントを誤る。その先で犬を連れた年配の男性を追い越した。男性は彼女に「こっちでいいんですかね」と訊ね、「右手側に山頂があるはずですよね」と彼女は答えた。その男性の先を歩き、しばらく経ってから自分が道に迷ったらしいことに気が付く。焦って行動しているうちに滑落し、滑落したおかげでかえって冷静になることができ、登山道をめざし藪の中を漕いでいき彼女は生還する。
しかしそのあと、その犬連れの男性が戻ってきてこないとことを知る。一週間かけて捜索されたし、最終日には捜索に彼女も参加したが見つからなかった。一ヶ月後、ひょっこりと犬だけが帰ってきたが、飼い主はとうとう見つからなかった。
この余韻がこわいよ!!!! 単独行こわいよ!!!
まとめ
私なりに得た教訓をまとめておきます。
・雲と天気図をある程度読めるようにしておく。中学生の理科の教科書を読み返したい。
・地形図も読めるとよい。地形図の一覧はこちらから。
・レンズ雲と笠雲は雨のサインなので注意する。
・入道雲が出たら雷がくると思え。稜線での雷は、遮るものがなくて落雷で落命しちゃうぞ!
・雷がきたら、体をかがめ小さく縮め、地面との接地面を少なくする。
・登山計画をきちんと立てる。(そんなガチ登山する予定はないけども、頭の中だけででも!)人生にも計画書があるといい!
・登山計画では引き返しポイントを決めておく、人生と一緒ね!
・その引き返しポイントを越えて前進する場合は、次の引き返しポイントまでのタイムリミットを決めておく。そこまでに到達できなかったら先の引き返しポイントまで戻る。これもまた人生と一緒だ!
あぁ、誰も寝てはならぬのゴローちゃんがいってた「恋愛登山家」ってこういう意味だったのかと思ったりもした。
気象遭難のことを書いた猪熊さん監修のカシオのプロトレック。気圧の急変時にアラームがなるらしいです。便利!
自分が「中高年の遭難事故」を起こす世代に入っていることも十分に自覚し、健康に山歩きできる年数を逆算し、今後の山計画を立てていきたいものですじゃ、あぁこれも人生と一緒か!