振り返る白銀の尾根冬の犬/アリステア・マクラウド「冬の犬」

冬の犬 (新潮クレスト・ブックス)

誰かのブログか書評欄で読んで「これはこの季節に読まなくっちゃ!」と早速取り寄せ読んでみました。あとで気がついたのだけど、池澤夏樹の「世界文学リミックス」でもちゃんと取り上げられていました。というか、池澤夏樹が2000年代前半に日本に紹介したカナダの作家さんです。

アリステア・マクラウド氏は、カナダのサスカチュワン生まれ。サスカチュワンってこんなところ。

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この短篇集に収められたノヴァ・スコシア州ケープ・ブレトン島で育ちます。

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ケープ・ブレトン島ってどこやねん、って言いますと、その島の西側に「赤毛のアン」のプリンス・エドワード島があります。日本からだと「赤毛のアン」関連でパッケージツアーが多数出ているようですが、効率よい旅程でだいたい4泊6日、ゆっくりしたかったら5泊6日、シカゴからハリファックスまで2時間半のフライト、そこから陸路での移動になるみたいですな、うん、一度行ってみたい、こんな本を読んでしまったら、隣のケープ・ブレトン島にも行ってみたい。でもバリ島のウブドに行って「なんだ、おばあちゃん家の棚田にそっくり」、親戚の行ったスイスの写真を見て「これ、おばあちゃん家の実家とあまり景色変わらないよ?」などと見たことのある景色にまとめたがる感性の人間が彼の地まで足を運んで、まっさらな気持ちで感動できるのかちょっとわからない。

さて、この「冬の犬」。どの話もどの話も、読み終えて、ちょっと本を伏せて、ふぅぅぅと静かにため息をついて、ちょっと逡巡して、猫を抱いて、愛しい猫を抱いて、自分の気持ちを落ち着けてから、改めて次の短編に取りかかる、そんな手順で読み進めたくなりますし、実際そうしないと次の物語に取り掛かれなかった。ソフトカバーっていうのが読みやすい造本です。文章で読むリアル「銀の匙」なお話「二度目の春」は、リアルな表現が端的な文章でさばさばと続き、ちょっと読み進められなかった。ゲール語の詩の世界に生きる老人を描いた「完璧なる調和」、犬と暮らしている人は読めないだろう「冬の犬」「鳥が太陽を運んでくるように」、一族に刻まれた記憶の物語「幻影」などが特に印象的です。

読んでよかった。この雪の多い今年の冬のこの時期に読んでよかった。うまく説明できないので、本の背表紙にあるおすすめテキストを引用いたします。


誰でもみんな、去ってゆく。
そしてよいことを残してゆく。

カナダ東端の厳冬の島で、祖先の声に耳を済ませながら、
自然と動物と共に生き、時を刻む人々がいる--
人生の美しさと悲しみに満ちた、宝石のような8短編。


アリステア・マクラウドの小説の中では、人生の素材が違う。今のぼくたちの
日々はアルミとプラスチックだが、彼の世界では人は鉄と針葉樹と岩に囲まれ
て生きている。氷雪に閉ざされた冬の、ゆっくりと過ぎる時間。
すべての話に、今はいなくなった気丈な人々への哀惜がつきまとっている。
つい20年前まで、人はこんな風に生きることができるのだ。
池澤夏樹

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