アンドレイ・クルコフ「ペンギンの憂鬱」

ペンギンの憂鬱 (新潮クレスト・ブックス)

海外の現代の小説を読みたかったら、新潮社のクレスト・ブックスから興味のある国のものを読めばいいんじゃないかちら、どうかちら、と今年になって初めて気がついたので機会があることに買っておいてます。

http://www.shinchosha.co.jp/crest/

で、その積んどく海外文学も結構背が高くなってきて、「冷血」を読んだあと、ちょっと箸休め的に軽いものを、と思って手にしたのがウクライナの作家アンドレイ・クルコフの「ペンギンの憂鬱」。ほらほら、表紙もかわいらしいし、ペンギンも出てくるし、きっとかあいらしいほっこり物語に違いないわ、と思って読んでみたら、そうでもなかった! 面白かった!!!

あらすじは書籍の背中カバーから、伊井直行さんの解説をまるっと。
主人公ヴィクトルは、ウクライナの首都キエフで新聞の死亡記事を書いて暮らしている孤独な男である。まるで十九世紀ロシア文学の登場人物のようだが、時代は一九九〇年代、ソビエト連邦は崩壊し、マフィアが暗躍している。主人公は旅先の街で、銃撃の音で目を覚ましたりする。まだまだ平和な日本からすると、はるか遠い国の話のようだが、読んだ印象は正反対である。憂鬱症のペンギンや、預けられたギャングの娘と寄り添って共同生活を営む主人公は、それがどんなに不可思議であろうとも、私たちの隣人のように思えてならないのである。

そうそう、なんというのだろう、主人公のヴィクトルは、街の中を流れるドニエプル川がそんなに遠くないキエフ市内に住んでいて、冬には友だちとペンギンのミーシャを連れて散歩に行ったりする。駅からちょっと離れると緑が途端に多くなりそうな首都圏のどこかの街、阿佐ヶ谷とか三鷹とか、そんな土地に日本のヴィクトルは生きていそう。読んでいてなんとなく村上春樹っぽい香りがするのだが(かといってパスタばっかりゆでたり、リノリウムの床を歩いたりしないのでご安心を)、作者のクルコフは「村上春樹の羊をめぐる冒険が気に入ってる」とのこと。あぁ、いま、思い出した、ヴィクトルが自分の半分の年にもならない女の子と寝るシーンがあるのだが、そこの描写が(さらりとしていつつも)とても村上春樹っぽかった。

ウクライナは1991年に崩壊したソ連邦から独立したばかり、まだまだ安定していない時期にこの小説は書かれています。キエフから北へ車で二時間ほど行ったところにはチェルノブイリがあり(わずか140kmの距離なのね!)、1986年にそれが事故を。クルコフが暮らし見てきた祖国は激動の時代を今も生き抜こうとしており、そしてこの本を読み終えた日の朝、ウクライナの大統領選が終わったというニュースを見ました。新しく大統領となるポロシェンコは、「チョコレート王」とも呼ばれている実業家で大富豪、政治経済外交とバランスのとれた政策が取られるのではないかと期待されています。とか言ってたら昨夜(現地時間午後)、キエフのドネツク空港が新ロシア派に占拠されたというニュースが入ってきました。クルコフは今朝、どんな思いでそのニュースを聞いたのでしょうか。


新潮クレスト・ブックスのフォントは『精興社書体』というものが使われていますが、品のある読みやすい文字でとても素敵。フォールドしやすソフトカバーの造本もすてき。これがハードカバーだと両手でがしっと開いて読まないといけないざんしょ? ソフトカバーだと片手にご本、片手にお酒、膝の上に猫、テレビではジロ・デ・イタリアなどということが可能なのです。ソフトカバー礼賛!!! あとですね、海外文学を読むときは、google map が横にあるととても臨場感あふれるんざます。たまにストリートビューを起動したりして、世界観にどっぷりはまることもできます。なんてよい時代なんでしょう。

http://www.seikosha-p.co.jp/
あぁ、精興社さん、なんて誠実そうなウェブデザイン!!

「えぇー村上春樹ぃー?」などと敬遠せず、こちらの記事を読みながら、機会がありましたらぜひ!  
ナショナル・ジオグラフィック 混迷のウクライナ、その歴史的経緯

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